「命を犠牲にするしか」包丁持ち役所へ 盲目の80歳男性、社会への怒り募り…高齢の粗暴犯、表面化しづらく
3/28(水) 9:31配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180328-00010002-nishinpc-soci
社会面の片隅にベタ記事が載った。〈役所で包丁持ち/暴れた80歳男逮捕〉。動機は何か。自宅を訪ねると、サングラス姿で現れ、取材に応じるという。「自殺しに行ったんですよ」。声には怒りが満ちていた。

 外出には白杖(はくじょう)が手放せない。15歳の時、草野球をしていてバットが目を直撃した。それでも悲観せず、26歳で鍼灸(しんきゅう)マッサージの店を開いた。妻を亡くしてからも身の回りのことは1人でこなし、穏やかに暮らしてきた。

難聴を発症、命綱の耳が聞こえにくく

 怒りが募り始めたのは、5年ほど前に難聴を発症し、命綱の耳が聞こえにくくなってからだった。家にこもりがちになる一方、火事にでもなれば逃げ遅れるため、一軒家から公営住宅へ移ることにした。そのあたりから怒りが沸騰しだした。

 入居手続きが煩雑で職員の説明も不親切に感じられた。「高齢で全盲だから住まわせたくないのか」。どうにか転居できたが、公共料金を滞納扱いにされた。「請求書を送られても読めない」。愚痴をこぼそうにも住み慣れた場所を離れ、近所付き合いもなかった。

社会への不満をテープに録音

 犯行の2日前、社会への不満をテープに録音し、報道各社に郵送した。一部の社には電話もしたが「事件にならないと取り上げられない」。突き放された思いだった。

 「わが命を犠牲にするしかない」と役所へ。玄関先で包丁を自分の腹に向けたところで取り押さえられた。容疑は警備員への威力業務妨害と銃刀法違反だったが、処分保留で釈放された。「現役時代は社会に精いっぱい貢献した。人助けもした。なぜ今になって肩身の狭い思いをしなくてはならないのか。悔しいを通り越し、みじめだ」