2018年の春季労使交渉で賃金引き上げの明るい兆しが見え、消費拡大に期待が膨らむ春。ただ原料や物流コストなどの高騰が暗
い影を落とす。価格に上乗せしにくい企業は、価格は
据え置いて内容量を減らす苦肉の策で対応するが、消費者の間では買い控えが始まりつつある。

森永乳業は3月1日出荷分から粉末クリーム「クリープ」の実質値上げに踏み切った。明治は4月3日発売分からヨーグルト2商品の容量を450グラムから400グラムに減らし、
希望小売価格を10円下げる。一瞬、値下げか値上げか迷うが、
1グラムあたりの単価は0.58円から0.63円となり、
実質の値上げだ。

米菓では、亀田製菓が4月9日出荷分から、主力ブランド「ハッピーターン」や「揚一番」など6商品を内容量を減らして実質的に値上げする。
コメ農家の飼料用米などへの転作が進み、主原料である国産米の価格が上昇しているほか、物流費も高騰しているためだ。

しかし単純に高騰分を価格に上乗せすれば「デフレに慣れきった消費者の抵抗感が強く、
客離れを招きかねない」とみる食品メーカーは多い。実際、今冬、レタスなど生鮮野菜の価格が実額で高騰すると、消費者は商品に手を伸ばさなくなった。

冷え込む消費者心理にイオンは1月、100品目を追加値下げしたほどだ。苦肉の策が実質値上げというわけだ。
この動きは全国の4000のスーパーやドラッグストアなどのPOSデータによる「SRI一橋大学消費者購買指数」からも読み取れる。
「ハッピーターン」であれば1袋あたりの実売価格から出す「価格指数」と、売値が同じでも中身が減れば値上がりとみなす「単価指数」の違いだ。

1〜2月の前年比伸びを率を平均すると、単価は0.5%だが、価格は0%。今の景気回復が始まった頃の2013年1〜2月からの5年間で、
単価は4.2%上がったが、価格は0.1%下落した。店頭価格は据え置きながら、単価を上げていく「ステルス値上げ」が進んだことがわかる。

ただ、ステルスは看破されている。みずほ総合研究所の分析では、1年前からの物価上昇はどれくらいかと家計に聞いた「体感」の物価上昇率と、
実質値上げにあたる単価指数の相関係数は0.87。強い相関で、家計は数量減を物価高ととらえている。同総研の市川雄介氏は「家計は実質値上げに敏感で節約志向を強めている」と指摘する。

第一生命経済研究所の星野卓也氏は「家計の体感物価が1%分上がると、実質消費を0.4%分押し下げる」と試算する。
みずほ証券の末広徹氏も「今の景気回復局面で実施した実質値上げが、実質消費を0.5%悪化させた」とはじく。
消費者は数字で把握していなくても、値上げをしっかり感じ取っている。

連合による今年の春季交渉の第2回回答集計では、定期昇給とベースアップ(ベア)を含めた賃上げ率は2.17%で、3年ぶりに前年を上回った。
消費を底上げしやすいベア率は0.64%と約20年ぶりの伸びとなった。消費拡大が期待される機運に値上げは水を差しかねないが、
人手不足で人件費や物流費がかさみ原材料コストも上がるメーカーも苦しい。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2849687023032018SHA000/?n_cid=SNSTW001