日本の敗戦は決まっていた
ここには「僕をつくった10冊」を挙げました。歴史に偏りすぎたかな、とも思いましたが、僕の血肉を形成する本、となると、こうなるんです。

1位の『沖縄決戦』は、日本人であれば全員読まなければならないと思う一冊です。


第32軍司令部で唯一生き残った八原博通・高級参謀の回顧録で、この本がなければ、日本軍上層部の視点での沖縄戦は後世に伝わっていない。沖縄の住民やひめゆりなどの学徒隊、米軍側の手記はあっても、軍司令部の記録がわかるのはこの本だけなんですね。

多くの犠牲者を出した沖縄戦ですが、司令部としては、本土決戦の時期を遅らせようと、国のために戦ったのは間違いない。と同時に、戦術の失敗も多々あった。そういう経緯を知らずして、基地反対派であれ賛成派であれ、沖縄の悲劇を語るべきではないと声を大にして言いたいです。

2位も先の大戦をテーマにした本です。僕は猪瀬直樹先生の大ファンで、迷った挙げ句、選んだ一冊が『昭和16年夏の敗戦』でした。昭和16(1941)
年の段階で、「日本はアメリカに負ける」との結論が出ていたという衝撃的なノンフィクションです。

当時、「総力戦研究所」という内閣総理大臣直轄の組織に、官僚を中心とした若手エリートたちが集められ、日米開戦後のシミュレーション
をしていました。軍国主義者でも平和主義者でもない、言ってみればごく普通の頭のいい人たちが、分析や数値を緻密に積み重ねた上で、どう考えても負けるという客観的結論を下した。

しかしそれを、東条英機は黙殺したわけです。その罪には、「願望」が現実を捻じ曲げていくという普遍的な問題が凝縮されていると思います。

『ソ連が満洲に侵攻した夏』を読むと、楽観的な願望が、やがて希望に変わり、はては現実にすり替わったときにどういう悲劇が起きるかがよくわかります。

ソ連が1945年の早い時期に参戦するであろうことは、敵情視察をした段階で報告が上がっていた。にもかかわらず、もっと後になるだろう、
後になってほしいと大本営と関東軍は願望しつづけ、しかし報告通りに侵攻されると、なすすべなく退去。百万邦人を見棄てたんですね。

さらに酷いことに、誰も責任をとらなかった。これは『責任なき戦場 インパール』にも同じことが書かれています。先の大戦でもっとも無
謀と言われたインパール作戦では3万人が死んでいますが、現場の牟田口司令官は左遷されるのみで、大本営も誰も責任をとっていない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54965