「介護職員の虐待はメディアで大問題になります。でも、介護職員が暴力を受けても、注目されることはありません。自業自得って言われるんです」──
都内の高齢者施設で働く30代の男性介護士が、こう話してくれたことがある。
インタビューしたのは2015年秋。入所者3人が相次いで6階のベランダから転落死した介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の事件が発覚したときだった。
メディアは連日、介護現場の虐待の映像を繰り返し報道していた。
言うまでもないことだが、高齢者への虐待は絶対に許されることではない。
だが、介護はすべて現場頼みで、暴力と背中合わせだった。その過酷な現実を語ってもらおうとインタビューした介護士さんのひとりが、冒頭の男性だった。
「暴言や暴力は利用者の不安な気持ちの表れ。もっとスキルを磨かないとダメ。
ブラックな仕事だと思うかもしれないけど、利用者がたった一回でも、心から『ありがとう』って言ってくれると、しんどいことも忘れられる素晴らしい仕事だよ」
男性は暴力を受ける度に、新人介護士のときに先輩に言われたこの言葉を胸に、耐えた。
実際、利用者から感謝され、心がスッと軽くなることがあったので、「利用者の暴力=自分の問題」と考え、必死でスキルを磨いてきたそうだ。
高齢者への暴力は問題になっても、高齢者からの暴力は問題にならない。
どちらの暴力もとんでもなく胸が痛む。それだけに、重い言葉だ。
私自身、介護の現場の過酷さは何度も書いてきたけど、「高齢者からの暴力」に関するコラムは書いていない。いや、書けなかった。
私の中の“ナニか”がストップをかけたのである。
声にならない声を書かなきゃ、と思う一方で、
「書くことで救いになるのか?」と脳内のサルが騒ぎ立て
「おいおい、それって誰かを傷つけることになるだろう?」と脳内うさぎが憂い
「傷つくのは高齢者? その家族? それとも暴力を受けた介護士さん?」と脳内タヌキが問うも、答えが出ない。
介護職員への暴行、杖を股に当てるセクハラも
家族だって見て見ぬふり。もう目を背むけていられない
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/031900151/
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