◇教師も生徒と同じ目線で…「学び合い教育」で信頼築く

 教育現場は問題行動を起こす子供たちとどう向き合っていくべきか。そのヒントになる取り組みをしている中学校が福岡市にある。

 同市博多区の市立東光中はかつて「市内有数の荒れた学校」だった。元主(もとぬし)浩一校長(60)が教頭として赴任した7年前は生徒が廊下を自転車で走ったり、校舎のガラスを割ったりするなど手がつけられない状態だった。教師への暴力事件で生徒が逮捕されたこともあったが、
4年前に導入した「学び合い教育」をきっかけに落ち着きを見せ始めたという。

 「学び合い教育」ではすべての授業で教師が生徒に課題を出し、生徒同士が分からないことを教え合う。教師は自分の考えを押しつけずに生徒たちを見守る。当初は授業が成立しなかったが、半年ほどすると素行が悪かった生徒も授業に加わりだした。生徒にクラスへの帰属意識が芽生えて自発的な学習につながり、
クラス全体の成績が上がって校内暴力はなくなっていった。

 「かつては力で生徒を抑えつけることも必要だと思っていたが、間違いだった」。さまざまな背景を持つ生徒と向き合った末に元主校長の考えは変わったという。「抑えつけようとするから生徒は反発する。教師も生徒と同じ目線で一緒に学ぶ仲間という姿勢が、教師と生徒の信頼関係を築く近道だと思う」【柿崎誠】

 教育評論家の尾木直樹・法政大特任教授(臨床教育学)の話 暴力は絶対に許されないが、指導力不足から教師への暴力につながることがある。反抗的な生徒に寄り添って気持ちを聴き、場合によっては別の生徒や教師にサポートを求めるなど適切な指導体制が必要だ。
公立校ではベテラン教員が新任教員の授業に同席して指導方法を教える仕組みがあるが、私学では各校に委ねられる。私学を含めて充実した研修体制が求められている。

 「夜回り先生」として知られる水谷修・花園大客員教授の話 暴行の程度が許容の範囲を超えているのなら、法律に従い警察が介入するのは当然だ。問題行動を学校の中だけで解決しようとして、いじめや体罰がなくならなかった経緯もある。ただ、暴力をさせないことが教育であり、
暴力があれば教育の負けでもあるということを、学校側は重く受け止めなければいけない。逮捕された生徒がやり直せるよう支援をすることも重要だ。