「よど号」に北朝鮮を思う
元赤軍派議長の塩見孝也氏が76歳で亡くなった。
よど号ハイジャック事件の首謀者とされ、直前に別の容疑で逮捕された。
訃報を聞いて、あるルポルタージュの一節を思い出した。
乗っ取った日航機で、福岡空港から北朝鮮に渡った実行犯9人のリーダーの言葉である。
「俺が金日成(キムイルソン)(主席)をオルグする」(「宿命−『よど号』亡命者たちの秘密工作」高沢皓司著)
オルグとは教育し、配下に置くことだ。何と無邪気な思い上がりかと、今なら誰しも思うだろう。
当時(1970年)、北朝鮮は「地上の楽園」だというイメージが吹聴されていたためだろうか。
もちろん、洗脳教育されたのは彼らの方である。
後に日本人拉致にも利用されたとみられている。
トランプ米大統領は今月、韓国国会での演説で北朝鮮を「地獄」と表現し、実例を次々に並べた。
かつて脱北者の一人、金聖〓(〓は「王へん」に「文」)(キムソンミン)氏が私の取材に語った生々しい言葉と重なった。
当局に一度捕まったときの様子である。「本名を言うまで3日間殴られ続け、顔はカボチャのように変形しました」
よど号犯の現地での恐怖も察するに余りある。いつからこんな国になったのか。
日本で最初に実情を描いたのは、在日朝鮮人の金元祚(キムウォンヂョ)著「凍土の共和国−北朝鮮幻滅紀行」(84年)とされる。目にした祖国の惨状をつづり、関係者に衝撃を与えた。
北朝鮮の経済力は一時、韓国と同等以上だったと分析されている。
だが、掲げた社会主義経済の破綻は旧ソ連をはじめ自国にも及び、国際的にも孤立した。
よど号犯らは事件前、「闘争」への高ぶりから「われわれは『明日のジョー』である」と自らを漫画のヒーローになぞらえた文章を残した。
多くは20代だった。一部は今も現地で暮らしているという。
50年近く何を見てきたのだろう。金日成バッジを胸に着けるのには時間はかからなかったと聞く。
https://www.nishinippon.co.jp/sp/nnp/editorialist/article/375930/