福島のいいところも悪いところも、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で苦しんだことも、そして復興に向けてさまざまな人が頑張っていることも、
きちんと伝えられる人になりたいと強く思った。通常なら1年で終わるミスピーチを、志願してもう1年続けることを決めた。

 そんなとき、番組取材で知り合った元ラジオ福島のフリーアナウンサー大和田新さん(61)に
「第1原発(1F=イチエフ)へ一緒に行きませんか」と誘われた。
2011年3月11日以降、地震・津波・原発事故で受けた福島のさまざまな痛みを取材し続けてきた大和田さんは、次世代を担う若い人たちにこそ、
被災地でいろいろなことを見聞きし、考え、未来に生かしてほしいと願う大人の一人だ。

 「ミスピーチとして、原発のことも質問されたら答えられるようになりたい」と感じていた。ちょうどタイミングがよかった。
原発に見学で入れば、歯のレントゲン1回分ぐらい被ばくすることを知らされた。心配する両親を説得し16年7月、1Fを目指した。

 ▽想像とは真逆の現場

 「ものすごく劣悪な環境で、雰囲気が重くて、やくざっぽいところかなって思っていました」。入る前のイメージをそう振り返る。
1Fの作業環境は2016年春から大幅に改善され、上石さんの想像とは真逆の世界になっている。
随所で除染が進み、地面や斜面はモルタルやコンクリートで覆われて放射線を封じる措置が取られた。
敷地の約9割では普通の作業服に防じんマスクで働けるまで線量が下がっている。
もちろん溶け落ちた核燃料が手付かずのままある原子炉建屋周辺は相当に線量が高く、全面マスクに防護服が必要だ。

 10月には第2原発(2F)を見学した。震災当時、4基ある原子炉はぎりぎりの作業でメルトダウンには至らず、冷温停止状態を保っている。
原子炉格納容器の中に実際に入って、燃料棒の下の部分や配管などの仕組みを見ることができる。
メルトダウンして人が全く近づけない1Fの原子炉建屋内がどのようになっているのか、2Fを見ることでスケール感やリアリティーを感じることができる。