読売新聞

近年、盛り上がりを見せる女子野球は、この1年も追い風の中で進んできた。高まった熱気を一過性のものとせず、定着させていくために必要なものは何か。持続可能な女子野球となる道を探った。

1メートル88の長身から繰り出されたボールの球速は130キロを超えていた。マウンドに立つ豪州の女子投手を見ながら、日本代表監督の中島梨紗(36)はイメージしてみた。「ワールドカップ(W杯)に出場してきたら、ちょっと打てないな」

5月初旬、豪メルボルンに近い球場で、豪州、日本、カナダ、米国のトップ選手が3チームに分かれて戦った。豪州野球連盟が女子野球のプロリーグ発足へ弾みをつけようと企画した。

中島は2009年から2シーズン、豪州のクラブでプレー。18年W杯で豪州代表の投手コーチを務めたこともあり、同連盟に招待された。1チームを指揮し、フィジカルが強い他国の選手にさらなる成長の可能性を感じたという。

豪州では、米大リーグの支援を受け、10年に男子のプロリーグが復活した。一方、女子はアマチュアでシドニーなど大都市にあるクラブでプレーする。同連盟によると、国内の競技人口は約4万人で、このうち15~20%が女子とされる。

ラグビーやサッカーの人気が高いものの、同連盟のグレン・ウィリアムス最高経営責任者(CEO)は「持続可能なプロリーグが目標。世界のトップ選手が対戦する機会を提供し続け、次世代の選手に刺激を与えたい」と未来を見据える。中島も「プロ化は今の選手のモチベーションになるし、野球人口は間違いなく増えると思う」と期待する。

日本も、女子選手がプレーできる安定的な機会の構築、パワーやスピードの向上など課題は多い。それでも、中島には「他の国も強くならないと、女子野球は発展しない」という思いが強い。

世界での日本の実力は抜きんでている。2年に1度開かれてきたW杯は08年から6連覇中だ。コロナ禍以降は行われていないが、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)による20か国・地域の世界ランキングは現在も1位。カナダは3位、米国は4位、豪州は8位だ。

日本だけが強くても、女子野球界は先細りしていく――。危機感を抱く中島は「将来的には日本に来たい選手を受け入れるチーム、日本から海外に挑みたいという選手が増えることが大事」と語る。世界のトップを走る日本女子野球の人材を世界での発展に生かせないか。全日本女子野球連盟は今後、グローバル化を進める方針だ。

今月10日に堺市内で行われた関西女子硬式野球連盟の表彰式で、全日本連盟会長の山田博子が講演した。その中で、15歳以下の国際大会やクラブチーム世界一を決める大会の開催を模索していると明かした。世界的に女子は13歳を過ぎると、野球をやめたり、ソフトボールに転向したりするケースが多いといい、その世代の目標を作るのが狙いだ。そのうえで、山田は出席した高校生や社会人、指導者らに、こう語りかけた。

「未来のために、何ができるかを考え、ぜひアクションしてほしい。そのアクションが集まれば女子野球の未来は、とても明るく輝くものになる」

一人ひとりの胸に響くものがあれば、と願っている。

読売新聞2022/12/31 14:00
https://www.yomiuri.co.jp/sports/yakyu/20221227-OYT1T50220/