4/2(土) 11:25配信 クーリエ・ジャポン
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数多のコンテンツのなかから、いま見るべき映画・海外ドラマを紹介する連載「いまこの作品を観るべき理由」。今月のおすすめは、90年代に実際に起きたセックステープ流出事件を現代の視点から描く『パム&トミー』だ。

■叩かれる有名人たち

セレブリティや自分の名前を出して仕事をしている人に対して、ある種の「公人」ととらえて何を言っても構わないという態度が横行している。それはインターネット黎明期を経て、SNS全盛時代における最大の問題と言えるかもしれない。正当な理由があったとしても、「この人は叩いてもいい」と一度認定されたら最後、どこの誰かもわからない有象無象がよってたかって制裁を加える。

あるいはメディアこそが、こうした流れを助長しているケースも少なくない。面白おかしくセレブをこけにする『サタデー・ナイト・ライブ』や人気ホストによるトークショーは人気もあれば素晴らしい点もあるだろうが、今の視点でその歴史を振り返れば「この人はコケにしていい」というお墨付きを与えて、知らず知らずのうちに人権を侵害していたことも事実だろう。

3月28日に開催された94回アカデミー賞授賞式もまたしかり。ウィル・スミスの暴力沙汰に世界中騒然となったが、スミスに張り手をくらったプレゼンターのクリス・ロックや司会の女性3人の外見いじりやセクハラまがいのジョークは時代遅れで不快なものも多かった。その人自身の努力ではどうにもならないことについて揶揄することは、いじめと同類だと思う。

そうしたメディアの姿勢や業界の風潮、さらにはそれを消費する視聴者への批判は、近年多くの作品で一つの視点として盛り込まれている。テレビやネットでたれ流される虚実入り混じる情報や不用意な言葉の数々を楽しんで消費する一般人。その結果、誰かのキャリアばかりか人生を破壊する行為が日々行われているのだ。

1990年代に世界を揺るがした、パメラ・アンダーソンとトミー・リーのセックステープ流出事件を題材にした全8話のドラマ『パム&トミー』は、まさにこの問題を現代の視点から浮き彫りにする。

パメラは「プレイボーイ」誌のグラビアを飾るプレイメイトとして注目を集め、当時毎週10億人が視聴すると言われた超人気番組『ベイウォッチ』に出演して絶大な人気を博した。トレードマークだった露出の多い真っ赤な水着姿も披露し、完コピと言えるほどそっくりなパメラを、特殊メイクも施して体現するのはドラマ『ダウントン・アビー』などのリリー・ジェームズ。

一方、全身タトゥーで破天荒なヘビメタバンド、モトリー・クルーのドラマだったトミーを演じるのは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のセバスチャン・スタン。ドラマは1995年に出会って3日で結婚し、ハネムーン中にセックスを収めたビデオが、トミーが恨みを買った人物の手によって盗まれ、セックステープとして世に流出した事件の顛末をテンポよくポップに描いていく。

当時の記憶が少しでもあるなら、劇中の音楽やさまざまなカルチャー、また主演2人の成りきり演技だけでお腹いっぱいになるほど。一方、まったくこの事件について知らない人でも、こんなことがあったのかと知るだけでも文句なしに楽しめる。