11/10(水) 9:06
日刊ゲンダイDIGITAL

新庄剛志の通訳を2年間務めた男が明かす 初叱責は真顔で「肘なんてついて食べるなよ!」
SFジャイアンツへの移籍会見での新庄剛志(C)日刊ゲンダイ
【証言集 新庄剛志は道化か、策士か】

 小島克典(元メジャーリーグ通訳)#1

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「よし! これでまた、日本社会は元気になるぞ!」

 4日の就任会見で新庄さんが発した数々の言葉を聞いて、僕は真っ先にそう思った。同時に2002年から03年にかけてメジャーリーグで通訳を務めていた当時のことが、昨日のことのように蘇った。

「人間性は大事。人の悪口を言わない。いただきます、ありがとうございました、を言える選手を育てていきたいです」と、人間教育の重要性に触れた際に思い出したことがある。

■新庄さんに初めて怒られたのは食事中のマナー

 あれはメジャーの開幕から2、3カ月が過ぎたころだったと思う。遠征先でレストランに入った時のことだ。

 初めて経験するメジャーのタイトなスケジュールに疲れ切っていた僕は、無意識に片肘をつきながら食事をしていた。

 テーブルに肘をついて食べるのは、米国でもマナー違反。僕の行儀の悪さを見るに見かねたのだろう。テーブルの向かい側に座る新庄さんは、長い手を伸ばすと僕の右肘を内側からパチンと払って、真顔でこう言った。

「肘なんてついて食べるなよ!」

 しつけの厳しいご両親のもとで育った新庄さん同様、僕の両親も行儀には口うるさい方だった。大人になってからも箸、フォーク、ナイフの持ち方など、テーブルマナーには気を付けていたつもりでも、疲労と気の緩みもあって、無意識のうちについてしまった肘を、新庄さんは見逃さなかった。選手である新庄さんの方が、僕なんかの何倍も疲れていただろうに。

 当時、僕は29歳。新庄さんの通訳を務めた2年間で初めて怒られたのは、あろうことか食事中のマナーだった。

 会見では日本ハム時代に同僚だった森本稀哲氏(現野球解説者)の野球に対する姿勢、プライベートを改めさせたことが技術の上達につながった話をしていたが、今、振り返ると、メジャーでプレーしていた当時から、私生活を大事にしないとプレーにも悪影響を及ぼすと肝に銘じていたのだと思う。

■「OK、OK、年下ね」

 コンビを組む前年の01年まで横浜(現DeNA)の通訳、広報業務に携わっていた僕は、新庄さんは明るい、だけどチャラい選手という先入観を持っていた。しかし素顔の新庄さんは、いつどんな時も、周囲にこまやかな気遣いができる素晴らしい先輩だった。

 これも食事の席の話になるが、レストランに入ると必ず、ウエーターに食材を確認していた。新庄さんはエビやカニが苦手で、アメリカ時代は、甲殻類が使われた料理は極力、避けていた。シーフード料理の多い地元サンフランシスコや、マイアミのレストランでは「食べ残すのは、作ってくれた人に悪いから」と、苦手なものを注文時に店員に伝えていた。

 グラウンドでも周囲への気配りを忘れず、監督、コーチや同僚選手はもちろん、クラブハウススタッフなどの裏方……自分に関わるすべての人への配慮を欠かさなかった。

 僕が通訳に採用された時にはこんなことがあった。

 01年のクリスマス。場所は都内のホテルだった。そこで新庄さんの面接を受けた時、最初の質問は「ところでキミは何歳なの?」だった。

 僕は学年で2歳下であることを伝えると、「OK、OK、年下ね」と、うなずいた。新庄さんは非常に礼儀を大切にする人で、おかしいと思ったことは看過できない。そのため、年上の通訳では自分が気を使ってしまうだろうから、年下の通訳を探していたそうだ。

 新庄さんの通訳を務めたのは2年間だけだったが、新庄さんから注意されたのはテーブルマナーだけではない。プロとしての心構えも徹底的に叩き込まれた。(つづく)

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https://news.yahoo.co.jp/articles/d8995f30bbef570e26e7696e5337ae93ed4eede5