対照的に、男女ともに10代や30代が、試合時間帯に一度も二桁にならなかった。極端に低かったのだ。どの民放局もコロナ禍でのCM出稿量の落ち込みから『コア層=購買層』と呼ばれる13歳から49歳の男女視聴率を重視して意識する番組作りに方向転換中だが、「サッカー日本代表はコア層では見られていない、これは致命的です」(別の民放ディレクター)。

サッカー日本代表戦におけるW杯アジア最終予選のTV放映権は全てアジアサッカー連盟(AFC)の収入になる。これも大きな足かせだ。今年からAFCはスイスと中国の合弁会社「DDMCフォルス」と8年総額推定20億ドル(約2100億円)の契約を結んだ。同社が窓口となりアジア最終予選の放映権を販売した。1年あたり262.5億円になるが、それも史上最高額だった。

購入する側に回る日本協会では、欧州や南米の強豪国のように「W杯最終予選の放映権料こそホームチームの権利だ」と長年主張している。しかしAFCサイドから「日本は自分の協会だけが儲かればいいのか」とその主張を撥ね付けられ続けた。結果的に今回支払っている放映権料は「1試合で3億円以上」と言われ、これはプロ野球巨人軍が高視聴率を叩き出していた時代の放映権料、1億円(推定)の3倍以上だ。

今回の最終予選では、ホームは地上波で見られるが、アウェー戦はDAZNによる配信だけになった。2017年にJリーグが旗振り役となって始まったスポーツ中継の配信を視聴するためには月額1925円(税込)がかかる。

「代表戦はどの世代の方にも見られる、地上波の生中継にこだわりたかった。我々の力のなさ、申し訳なく思っている」(日本協会・田嶋会長)

地上波とDAZNが「手を組む」理由

TV各局と DAZNの両者がホーム・アウェー戦の見せ方でそれぞれしのぎを削っているのかと思えば、実は手を握っているところもあるという。アウェーの試合映像は DAZNが権利を持つ。通常ならそのニュースやスポーツ報道などの映像は各TV局へ販売ができる。その方法はライツホルダーとしてDAZNが主導権を握る。

「大会のランクによって一概には言えませんが、一番組3分間で10万円くらいが相場、ニュースやスポーツでは使えてもワイドショーなどでは使えませんという、NGの大会もあります」(前出の民放ディレクター)

ところが今回の最終予選では、TV局が依頼する映像を無料で提供することが決まった。

「異例のことです。はじめはDAZNさんも『映像は有料で』という話でした。通信費は各TV局の負担になるのですが、それもこれも日本代表戦を盛り上げるためです」(同)

まずはより多くの人に関心を持ってもらわないと、アウェー戦の視聴にも繋がらない――そんなDAZNサイドの危機感もうかがえる。

サッカーW杯最終予選における地上波生中継は、代表人気の価値を測るものだ。視聴率も取れないし、話題にもならない「サッカー日本代表の低迷」は、これまで日本スポーツ界で収益を上げるための「参考書」にしていた他競技団体にとっても方向転換を迫られる。サッカー日本代表を手本にしていては、収益が上がらなくなるかもしれない。これは他競技に向けた負の連鎖の始まり…ともいえる。

サッカー日本代表が憎らしいほど強ければまだ光が見える。ベテランDF長友佑都(FC東京)は予選開幕前に「カタールW杯では、ベスト8を目指す。ならば最終予選は圧勝しなければいけない」と言い切っていたほど。森保ジャパンの2戦終えての結果はまさに正反対で進んでいる。

負けられない中国戦でも1―0(日本時間8日午前0時開始)で辛勝。その2日後に行われた9月10日の日本サッカー協会100周年記念式典では「あれだけ(1−0)だったら見ない方が良かった」(元日本代表FW釜本邦茂氏)、「森保(監督)とはよく話すが、いろんなプレッシャーの中でその力を出せるか、どうか」(FC今治・岡田武史会長)と、大御所たちからも森保ジャパンに対する不安の声しか聞こえてこない。

日本中を熱狂に渦に巻き込んだ、サッカー日本代表のW杯アジア最終予選の驚異的なコンテンツ力は今や昔の出来事に。ヤキモキする場面を打破するためには、圧倒的な強さを見せて7大会連続となる本大会出場を果たすしか道はないのか…。