プロボクシングの世界チャンピオンである井岡一翔の左腕にある入れ墨が大きな騒ぎになっている。実のところ、これは日本ボクシングコミッション(以下JBC)の大失態である。それは入れ墨のある井岡をリングに上げたことではなく、JBCの安河内剛事務局長がデイリー新潮の取材に対し、「ルール違反は明らかで、現在、対応を検討中です」と答えてしまったことである。

 この返答を受けて、デイリー新潮は『井岡一翔、「タトゥー」で処分へ JBCは「ルール違反。対応検討中」』として報じ、世間は「入れ墨を入れた井岡が処分される」という認識、つまりは井岡が問題を起こしたという話になった。

 それがなぜ大失態かといえば、ボクシング界において「入れ墨禁止ルール」は近年、撤廃したほうが良いものとして捉えられていたからである。要するにJBCは、現在の方針とは噛み合わない答え方をして批判を浴びているのである。

 この返答が「ファンデーションで隠す措置をしたはずが剥がれてしまったので、今後はルール改正も含め、そういう場合の対応を協議する」程度にしておけば、不可抗力のミステイク程度に終わったが、答え方を誤って、騒ぎを自ら大きくして首を絞める結果になっている。

 「ボクシングの試合ルールで入れ墨が禁じられているのに、井岡はJBCによりリングに上がることを許されている」と批判する向きもあるが、入れ墨を理由にプロモーターとテレビ局が組んだ井岡の試合を拒否することなど、たかが業界団体のコミッションには難しい判断だ。その点において、この見方は誤っている。

JBCがやってきたこと

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 また、刺青は日本において嫌悪感を抱かれているから、井岡が処分を受けるのは仕方がないのではないか、という見方もある。

 「日本には罪人への刑罰として『刺青』の文化や、反社会勢力の方の多くが刺青をしている事から嫌悪感がまだあるのは仕方ないと少し思う」

 ツイッターでこう書いたのはタレントの武井壮だ。そのとおり、入れ墨は多くの日本人にとって好まれていないが、しかしそれが、この十数年のJBCの努力を無視した意見だということも指摘しておく必要があるだろう。

 この15年ほどで日本は暴力団の徹底排除をしてきたし、ボクシング界はJBCが主体となって警察と連携、暴力団の観戦を消滅させているからだ。

 実際、リングの外に目をやっても、そうした暴力団排除の動きは顕著だろう。アウトローやサブカルチャーを長く取材してきた筆者から見ても、たしかに2005年ぐらいまでは、彫り師と暴力団が繋がっているケースが多かった。しかしその後、暴力団排除が進み、本物の反社会的勢力にはならない、チョイワル気取りの若者がファッション的に入れ墨を入れるようになったのである。現在のタトゥースタジオで働く人々の様相は、かつての彫り師とは違ってきている。

 井岡は試合に際してラッパーを連れてリングに入場したが、これもやはり、彼がいわゆるオラオラ系やB系ともいわれたストリートファッションを好んでいること、分かりやすく言えばヤンキー文化のようなものに魅力を感じていることを示しており、タトゥーもその延長線上にあることがわかる。

 この手のオラオラ系のファッションは、ほかの場所でも見られる。たとえばプロレス界では、以前、後ろ髪を伸ばすのが流行っていたし、佐々木健介や天山広吉といった選手はそうした髪型にくわえて、同時に刺繍ジャンパーを着たりもしていた。それは、いかにもカウンターカルチャーの精神だった。

 ただ、一般人の多くはそのストリートファッションにも憧れてはいないから、井岡の入れ墨を見て「かっこいい」とは思わず、今回の問題に「入れ墨は嫌い」と感じ、「処分やむなし」と感じているだけである。

https://news.yahoo.co.jp/articles/03603a337b746f1dc8939c6ec394ee45072de2af
1/10(日) 7:01配信