スポーツ競技団体の「専任コーチ」に対する国からの補助金を巡って、日本レスリング協会が過去の不適切な流用を報告していなかった疑いが浮上し、日本オリンピック委員会(JOC)が同協会に内部調査を求めたことが、複数の関係者への取材でわかった。同協会は月内にJOCへ報告する見通しだ。

同協会の元専任コーチから今年4月、JOC宛てに告発があった。関係者によると、同協会は2012年まで、補助金と競技団体負担金で構成された専任コーチへの謝金の一部をコーチらに寄付させ、正規の会計とは別の専用口座で管理。寄付で集めたのは総額1000万円以上で、海外遠征時の会食代や五輪選手団の記念品購入費などに充てられていた。

12年当時、謝金の競技団体への還流は明確な禁止事項ではなかったが、同年に会計検査院が計12団体について「結果として専任コーチ等が受領しておらず、事業費と認められない」と指摘し、文部科学省が統括団体のJOCに補助金返還を命じる事態となった。同協会は、同年にJOCが設置した第三者特別調査委員会のアンケートで還流を申告せず、帳簿にも記載していなかったため発覚を免れたとみられる。

不正流用を誘発する恐れがあるとして、謝金の競技団体負担分は13年度以降、JOCが肩代わりすることになり、現在は国の全額補助となっている。

ある協会幹部は取材に対し、13年以降はコーチらへ寄付を求めていないとした上で、「任意で集めたお金だし、当時なら許される範囲だと思う」と説明。私的な活動への流用はなかったが、支出は続け、15年頃に全額を使い切ったという。第三者委への申告を怠った点については、「当時の担当者が(協会を)辞めており、どう回答したのか誰も知らない」と述べた。

一方、元専任コーチの一人は「(協会幹部に)『ルールだからお金を戻せ』と言われて立場上、断れなかった。使途を尋ねても、はぐらかされた」と話している。

◆専任コーチ=競技団体からの推薦に基づいてJOCが委嘱するコーチやトレーナーらで、五輪で活躍が期待できる選手の強化、育成に取り組む。2012年度までは、専任コーチに支払う謝金の3分の2を文部科学省の補助金、3分の1を競技団体の負担金としていた。


読売新聞オンライン
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