さらに小倉氏は、1980年代のアイドル曲全般に当てはまる特徴が、その歌声をより際立たせていると指摘する。現在に比べると、当時は楽器類、サウンドの多彩さは乏しかった。音の数や情報量も、もちろん今よりも少ない。でも、だからこそ彼女の歌声はより映えた。

「曲を聴いていて感じたのが、明菜さんの声が最高の楽器になっているということ。近年にリリースされたアルバム曲を聴いても、やはり音数が少ない。もはや明菜さんが狙ってそのように作っている気がします。音楽を作っている人間は音数を減らしていく習性がどこかにある。明菜さん自身、行き着いた音楽性がそこにあるのではないでしょうか。そういう意味では、明菜さんはまさに音楽の人。曲をいっぱい作って音楽の人になった方はたくさんいますが、明菜さんのように声で音楽の人になれた方はなかなかいません」と小倉氏は歌声を絶賛する。

 また小倉氏は、中森が持つ音楽的な資質について「たとえば『少女A』は、びっくりするくらい不穏な流れがずっと続く。普通はアイドルの曲でこれは作れない。となると作曲者たちは、明菜さんが歌うことをはっきり意識して作っていることが分かります。そしてそれらの曲は、明菜さんが歌ってちゃんと完成するようになっている。どんなサウンドプロデューサーと仕事をしても、明菜さんはその歌声で曲をモノにできる。曲づくりとして当たり前のことのように聞こえますが、実はこれがすごく難しいんです。そういった点でも明菜さんは音楽の人」と解説してくれた。