獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」

新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)による感染症(Covid―19)が対岸の火事でなくなったころから、トレセンの内外で同じ質問を何度も聞かれるようになった。「ウマには感染しないの?」。

厩舎人にとっては自分の健康と同様、あるいはそれ以上に、最愛の相棒たる馬たちの健康は大きな関心事だ。「競馬サークルから感染者が出れば開催が危ぶまれる」という言説が聞かれるようになってから、プレーヤーとしての最大の“当事者”であるウマたちへの直接の影響を心配するファンの心理も分かる。

16日現在、ウマに関するSARS―CoV―2の臨床報告や積極的な感染実験の報告はゼロだ。論文検索でウイルス名と「Horse(s)」でヒットするのは「horse」の語を「トロイの木馬」を例えの文脈で使った1本しかない。

ヒト以外の感染例としては、ニューヨークの動物園でトラなどネコ科の肉食獣、香港で飼い犬で感染を疑う例が出たとの報道があった。しかしネイチャーと並ぶ有力科学雑誌「サイエンス」が8日に受理した感染実験の論文では、ネコやフェレットに関してはやや注意して見ていかねばならないものの、イヌ、ブタ、家禽(かきん)では感染しにくいと報告している。

ウイルス名と「cats」で検索してヒットする論文は、前述のサイエンス掲載のものを含めわずか3本しかない。オン・タイムの事件だけにあまりの楽観論には慎重であるべきだが、ネコのように世界中で最もポピュラーな愛玩動物のひとつが有力な媒介者であるなら、かなり多数の感染報告が挙がっているだろう。

ウマとヒトとの関係はネコに劣らず世界中の広範囲で非常に強い。従って、同じことが言える。そもそも、ウマが問題になるレベルで感染したり、伝搬に一役買っていれば、いかにトレセン内で細心の注意を払おうとも、とうに厩舎人の多くが犠牲になっているはずだ。ウマの感染可能性に気をもむよりも、週末は外に出ず在宅投票。これが今、競馬ファンにとっては、自分にも世のためにもなる。

ソース/YAHOO!ニュース(中日スポーツ)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200416-00010049-chuspo-horse