吉井投手コーチは、力加減について「自分で気持ちよく投げればいいから」と伝えた。佐々木は、セットした状態から、その場で左足を高く豪快に上げて投げ込んでいく。
多くのメディアとファンに見られていることで、力みがあったのか、多少バラツキがあったが、163キロ右腕のスケールは、周囲をうならせるものがあった。

「良かった。一番良かったのは機嫌よくやってくれたということです」と笑いを誘った吉井投手コーチも、その能力に衝撃を受けた。

「まだ全力ではなく6、7(分)くらい。自分の高校時代と比べると数段いい。股関節の使い方もそうだけど、足首が柔らかくしっかりと力があった。ビデオで見ていいなと思っていたが、実際も、いいなあと思った」
柔軟で強い股関節と足首が163キロを生み出す原動力なのか。

実は、これが吉井メソッドとも言えるゴールデンルーキー育成計画の第1ページだった。

「高卒なので(最後の夏から成長して)体に変化がある。高校の時の体と成長している体では投げている感覚にギャップがある。
そこを埋めてもらってから(ブルペンでの)ピッチングに入ってくれればという思いで、ああいうトレーニングをした。
いろんな環境、シチュエーションでボールを投げることで、その感覚を取り戻して欲しい」
そのギャップを埋めないまま調整を先に進めると故障のリスクが高まる。
「一冬を越して体力が上がってから投げてみて、もの凄くいいという感覚になって投げ続けて故障する場合が若い子に多い。
フォームのバランスを崩して調子を落とす子もいる。僕の現役時代がそうだった。調子を取り戻すのに1年半もかかった。
そうなったらもったいない。そうさせないのが僕らの仕事」

佐々木自身は、体の成長に伴うバランスの変化は「そんなに変わらない」と言うが、吉井投手コーチは、自らの失敗を反面教師に慎重にチェックしているのだ。

そして、この40メートルという距離にも秘密があった。