西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、日本ハムの吉田輝星投手の可能性について語る。

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 試合途中までだったが、日本ハムのドラフト1位、吉田輝星のデビュー戦をテレビでチェックしていた。6月12日の広島戦。5回1失点で勝利投手となったが、まずは笑顔でプロの第一歩を踏み出せたことを素直に喜びたい。

 初回の立ち上がり。1死満塁のピンチを迎えた。初めての札幌ドームのマウンド。力みもあったろうし、一番気になったのは踏み出した左足が突っ張って、体重をしっかり乗せられなかったことだ。あれでは力任せに腕を振るだけになってしまう。何とか無失点に切り抜けたが、球数がかさめば球速が落ちていくと感じた。スムーズに左足に乗っていけない→捕手に近いところでボールを離せない→上体だけの投球になる→右腕への負担が増大するという流れだ。

 しかし、吉田は立ち直った。それどころか、五回にも145キロ前後と初回よりも球速も出ていた。左ひざをだいぶ柔らかく使えるようになって、左足に体重を乗せられるようになっていた。広島の鈴木誠也が「あまり見たことがないストレート」と評したが、プロでも球威は通用する。可能性を感じる初登板だった。

 何より栗山監督が一番ホッとしているはずだ。ルーキーは成功体験がないわけだから、最初は痛い目に遭うよりも、一つでも自信を積み上げることが、成長を促すことになる。コーチ陣の中には、2軍で100球以上投げたこともなければ、5回を投げきったこともない投手の1軍デビューに反対意見もあったことだろう。しかし、絶妙なタイミングで先発させることができるのは監督の決断でしかない。直前のイースタン・リーグの巨人戦で6失点を喫しても「一番調子のいいタイミングで上げたい」との栗山監督の信念も見事だった。

 この一戦を見て、西武監督時代の1999年の松坂大輔(現中日)のデビュー戦起用のことを思い出した。球団営業サイドからは4月4日の開幕第2戦、本拠地・西武ドームで投げさせてほしいとの要望があった。2カード目は東京ドーム。ぜひ本拠地デビューでという考えはわかったが、首を縦に振らず、開幕4戦目の4月7日の日本ハム戦に決めた。理由はただ一つ。白星デビューをさせるためだ。本格派向きの傾斜が急なマウンドを選んだことは今でも覚えている。

 吉田は直球への自信を深めただろう。ただ、大谷翔平のように160キロを出せるようになるわけではない。そしてどんなに直球が素晴らしくても、直球だけでは抑えきれなくなる。176センチと上背のない吉田には打者の反応を感じ取れる投手になってもらいたい。どの球種をどうミックスして抑えていくか。打者とどう駆け引きを行うか。一つひとつの1軍打者との対戦で感じることだ。投球に100%正解の教科書なんて存在しない。自分の持ち球と打者の反応を見ながら勝負していく。そうすれば、変化球の引き出しが今後増えた時に一気に勝てるようになる。

 次の登板は交流戦最終戦となる6月23日の中日戦での先発の可能性があるという。セ・リーグとは今後、クライマックスシリーズまで対戦がなくなるから、後先考えずに思い切ってぶつかっていける利点がある。栗山監督もそこまで考えているはずだ。他の高卒新人も負けてはいられない。同世代の刺激になるはずだ。

※週刊朝日  2019年6月28日号


6/22(土) 7:00配信 AERA dot.
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