2020年の東京五輪のマラソンのスタート時刻は午前7時だが、日本医師会と東京都医師会は先月29日、1時間30分早め、午前5時30分にするべきだと東京五輪組織委員会に要望した。それに噛みついたのが、世界陸上や国内マラソン大会の運営に携わってきた日本陸上競技連盟顧問の帖佐寛章氏(88)だ。反論を聞いた。

■「医者の連中が分かっていないこと」

 ――医師会はスタート時間を5時半にすれば危険ではない時間帯にレースが終了する。それを過ぎると、暑さ指数(WBGT)のデータから、運動は原則中止の31度を超えると言っていますね。

「選手の健康面だけを考えれば5時半スタートは悪くない。医者だから健康を考えるのは当然だろう。だが、運営面はどうする?」

 ――大会を支えるスタッフや準備のことですか?

「そうだ。5時半スタートなら選手は0時から1時くらいには起きる。食事はスタートの3時間前までには済ます。選手は時間が決まればしっかり調整するよ。運営スタッフも睡眠時間を削ってでも汗をかく気はあるだろう。しかし、ものには限界がある」

 ――と言いますと。

「マラソン運営には、主要役員約200人に、補助要員も同数かそれ以上の数が必要だ。5時半スタートなら、それだけのスタッフを3時には集合させなければならない。私が運営本部長を務めた91年世界陸上東京大会の時は、マラソンのスタートは6時。スタッフは3時半に集合し、30分の打ち合わせをした」

 ――集合といっても、その時間は鉄道も都営バスも使えません。

「役員は神宮外苑横の日本青年館の地下の講堂に雑魚寝だ。補助要員は、日体大、国士舘、中大、日大の長距離選手に担当してもらったが、都内のホテルに泊まることはできない。通常の3〜5倍の料金になっていた。そこで、各大学の合宿所にバスで学生を迎えにいき、全員が日本青年館に3時半に集合。
その後は運営スタッフにサンドイッチとウーロン茶を1本配り、約5キロごとの各関門(制限時刻を過ぎると閉鎖)などにバスで移動。4時少し前に到着後、1時間半以内に準備を完了した。スタート時間が早いほど、運営スタッフの移動と設置に苦労する」

 ――早朝は給水所の準備も大変ですね。

「補助要員は、自分専用のスペシャルドリンクとゼネラルドリンクの他に、氷水を吸わせたスポンジ等を用意する。選手はスペシャルドリンクを、給水所の数(8本)だけ前日午後8時までに指定の場所に持っていき、渡されたスタッフが冷やす。凍らせないようにな。ドリンク類や冷蔵ボックス、テーブルなどをトラックで給水所まで運び準備する。大事なことは給水だけじゃないぞ」

 ――電源ですか?

「そうだ。記録はコンピューターで計測する。91年の世陸の時は沿道の商店などからコンセントを借りた。関門ごとにバッテリーカーを置けば高額なカネがかかる。
今は2月に東京マラソンが行われているとはいえ、五輪コースは違うので、関門や給水所の位置も当然異なる。大事な給水や計測の準備はボランティアには任せられない」

■「夜のマラソンはペースが狂う」

 ――以前から日刊ゲンダイに、東京五輪のマラソンは6時スタートにしろと言ってますが、5時半なら30分しか変わりません。

「深夜から早朝の30分というのは、昼間の1時間以上に相当するといっても過言ではない。それと感覚の問題もある。マラソンの練習で朝6時に起きることはあっても、5時半というケースは少ないからな。途中棄権に関しては、どんな天候でも出てくる。人数の問題だが、熱中症でゴールしてから命を落とすことがあってはならない。危ないと思ったら審判がストップをかける」

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/241631/4

続く