「あれはイジメだよ。相撲界は惜しい人材をなくした。取り返しがつかない」

「いやいや、大人げない行為を繰り返して周囲の反感を買って孤立し、辞めさせられる、と思い詰めた結果だから。説得しようとした親方もいたのに電話に出なかったそうだし、どうしようもない」

 空前絶後の若貴ブームを巻き起こした平成の大横綱・貴乃花親方が日本相撲協会に引退届を提出したことで、角界関係者からは様々な声が漏れ聞こえてくる。

 協会は7月、すべての親方は五つある一門のいずれかに所属するように決めていた。その締め切りは9月27日。消滅した旧貴乃花一門の親方と無所属の親方たちは所属先が決まったが、9月場所が終わっても貴乃花親方だけ所属先が決まっていなかった。

「かつて所属していた二所ノ関一門に千賀ノ浦親方(元・隆三杉)が働きかけ、『2年後には(理事長選に)立ちません』と誓約書を書くと言っても認められなかった。強硬に反対したのは高田川親方(元・安芸乃島)で貴の兄弟子ですが、2人は仲が悪いんです。全親方の一門所属を義務付けたのは公益法人としてのガバナンス強化と協会側は説明していますが、本音は“貴の乱”を再び起こさせないために囲い込もうとしたわけです。9人の親方の合流を認めた二所としては、ひさしを貸して母屋を取られることを恐れたんでしょう」(ベテラン記者A)

 意外だが、騒動の発端で、引退した日馬富士が所属していた伊勢ケ浜一門も貴乃花親方の合流を検討していたという。

「相撲ファンなら、なぜ伊勢ケ浜親方(元・旭富士)が?と思いますよね。次の理事選に向けて1票上乗せしたかったという判断だったようです(笑)。朝日山親方(元・琴錦)が『ウチに来なさい』と声をかけ、本人も同意したそうですが、横綱白鵬を抱える宮城野親方らが強硬に反対し、結論が出なかった。八角理事長(元・北勝海)預かりで高砂一門で面倒を見たら、という話もあったんですが」(ベテラン記者B)

 角界OBはこう語る。

「亡くなった北の湖理事長から何度も『俺の次はアイツだ』と聞かされました。あんなに早くこの世を去ると思っていなかったでしょうし、長期政権を考え、次を託すのは貴乃花だとね。それぐらい評価してたんです。たとえば相撲協会の健康保険がありますが、そこに呼び出しを入れないことを貴乃花は問題視し、裏方から慕われていましたよ」

 北の湖親方が2度目の理事長になる直前の大相撲は野球賭博と八百長問題の影響で約50億円の赤字を抱えていたという。そこから、貴乃花という希代の人気者をアイコンにして人気復活を図ったのが当時の北の湖理事長だった。

「貴乃花は正論を口にするくせに、やることが子供っぽい。だけど、あれだけの大スターですから、その知名度を生かさない手はない。彼を、うまく使いこなせる人間が今の協会幹部にはいないということですよ」(前出記者B)

(岸本貞司)

※週刊朝日2018年10月12日号

2018.9.30 16:00
https://dot.asahi.com/wa/2018093000014.html?page=1