「辛い」一発で決めた男・村田、本塁打王の意味。

10月6日、広島市民球場。佐々岡真司が9回2死から本拠地最後のマウンドに立った。
相手は横浜の4番、村田修一。1?3からのストレートを、村田はレフトスタンドに叩き込んだ。
それは、花道を飾ろうとする男に対して、武士の情けにもとる行為ともいえた。試合後、本人は唇を噛んでこう言った。

「打って辛いホームランは今日が初めてです」

ただ、結果的にこの「辛い」36号がヤクルト・ガイエルとの競り合いに決着をつけることになった。
昨季は日本人選手のなかで本塁打、打点トップ。
そして今季、ついに本塁打王を獲得したのである。
いまや数少ない正真正銘の日本人大砲になった。この意味は実は大きい。

「編成のプロ」と言われた根本陸夫(元西武管理部長、ダイエー球団社長=故人)は、かつてこう語っていた。

「人気チームを作り上げるには、右の本格派、そして一塁、三塁を自前の日本人で育て上げる必要がある。他所から呼ぶのは、若いチームに優勝経験のあるベテランの力を借りる場合に限る」

言葉通り根本は、西武時代は右の本格派に東尾修、一塁・清原和博、三塁・秋山幸二、ダイエー時代は、右の本格派に斉藤和巳、一塁・松中信彦、三塁・小久保裕紀を中心にチームを作ろうとした。

今年の横浜は、一塁の吉村裕基、三塁の村田が若いチームを引っ張った。
現在、根本流に一番近く、将来の人気チームになる可能性は十分に秘めている。

主役を担う村田には、だから順調に成長してほしい。ソフトバンクの秋山幸二総合コーチが言っていたことがある。

「強くないチームで若いうちにタイトルを獲ると『お山の大将』になってしまう例が多い。
優勝争いをしていなくてもいかにモチベーションを保つか、それが大事になってくる」

村田に打たれた佐々岡は、こう言っていた。

「引退を決めたピッチャーのストレートを打てなくては本当のホームラン王じゃない。最後に村田というすごい打者に打たれたと、子供たちに自慢できるようなバッターになってほしいね」

佐々岡の思いに応えるために、そしてチーム躍進のために、村田の真価が問われるのはこれからだ。

http://number.bunshun.jp/articles/-/11672

https://www.youtube.com/watch?v=YhZ9RHjw42A
横浜・村田修一 引退登板の広島・佐々岡から特大ホームラン