決勝が終了した直後に電話をすると、アシマ夫人が「セレモニーを見たいからあとでかけ直してください」という。
結局、この日は話が出来ず、翌日に改めて電話をすることになった。
ところが次の日も、夕方に起きるとクロアチアの凱旋の様子をテレビで見たいとのこと。実際に話が聞けたのは、さらにその翌日だった。
そこでオシムが語ったのは、大会そのものの総括以上に、サッカーとワールドカップが世界に与える影響と可能性、
さらに日本はどこに進むべきかといった、より大きく包括的なテーマに関してだった。

――元気ですか?

「ああ、悪くない。選手たちがザグレブに到着し、スプリトや他の小さな都市でも、クロアチアが国を挙げて彼らを歓迎した。
そしてテレビでは様々な興味深い議論がなされた。そこには将来に向けてのプロジェクトも含まれていた。
それは代表のために新しいスタジアムを作るというもので、スプリトにするのかザグレブにするのか、場所はまだ決まっていない。
問題は本格的に具体化しようとしたときに、どれだけ真剣に議論して実現まで持っていけるかだ」

――素晴らしいプロジェクトだと思いますが……。

「代表が成果をあげたことで、人々に生きる希望が湧いてきたのは事実だ。それで日本はどうなっているのか?」

――ずっとこっち(ロシア)で仕事をしていたので、このところ日本で何が起こっているのかあまりよくわかりません。

「それが当然だ。私は日本がすべてうまくいき、さらによい状態になることを望む。とりわけサッカーに関して、
小さな国がいい例を作りあげた。これだけ大きなことを成し遂げ得るとは」

――それがクロアチアが世界に与えた影響です。

「あなた方は能力に恵まれている。進歩のためにあなた方よりも優れているものを参考にしながら、
ちょっと想像力を働かせてこれからどうなっていくかを予測する。模倣ばかりしていては駄目で、模倣は模倣に過ぎない。
自分の目でしっかりと見て判断する。どの道が未来へと続いているのか。正しい道を歩むためにはどの方向を向けばいいのか。
どんなやり方で歩みを進めるのか。その際に何を優先したらいいのか。

 というのもあなた方は、未来に向けて理想的なサッカーの環境を作りあげているからだ。素晴らしいリーグを実現しているし、
必要なことはすべて行なって観客も多く集まっている。選手たちもそこで素晴らしいプレーを実現することを望んでいる。
彼らが最終的に、自分がそうした中にいると理解することを私は望む。

 そう、あなた方はサッカーに必要なものすべてを備えている。観客もインフラも才能に溢れた選手も、
すべてが進歩のプロセスの中にある。大きな可能性があなた方にはある。あとは少し自信を持つことだ。自分に自信を持つ。それだけだ。

 シンプルなことだが、実現するには膨大な時間とエネルギーを要する。また経験も必要だ。失敗を重ねたうえで得られる経験であり、
ワールドカップのような大きな大会、ヨーロッパのトップリーグのような厳しい戦いから得られる経験だ。
常に学ばねばならないし、生きている間それは続いていく。

 君たちが元気で日本に戻ることができたらそれでいい。サッカーの魅力を十分に堪能して戻るのであれば、ロシア滞在は良かったといえる」

http://number.bunshun.jp/articles/-/831417
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