ドラマや映画など、あらゆるコンテンツがオンデマンドで見られる時代が到来し、スポーツの視聴環境にも変化が訪れています。 地上波各局のスポーツ中継が減少し、一方で黒船DAZNが多種多様なスポーツの権利を手中に収め、今年の4月には契約件数100万件を突破したというニュースが話題になりました。これからのスポーツ中継、放映権ビジネスはどうなっていくのでしょうか?
今回はその前編となります。
(文=大塚一樹)

世界中を席巻するOTTと放映権の高騰

開幕から好試合が続出している2018 FIFAワールドカップ・ロシア大会は、盛り上がりに欠けるといわれていた日本でも連日テレビ放送されている。いざ始まってみたら、世界のサッカーの迫力に寝不足になったという人も増えているかもしれないが、ワールドカップは出場国だけでなく、それ以外の国々からも大きな注目を集めるビッグイベントだ。

前回の2014年ブラジル大会ののべ視聴者数は32億人、決勝のドイツ対アルゼンチンは10億もの人が視聴したといわれるワールドカップだが、その視聴方法に近年大きな変化が見られる。10億人のうち、3億人近くはインターネット中継を介してスマホやタブレットなどのモバイル機器で視聴したというのだ。変化が目覚ましいスポーツの中継、放映権について「スポーツライツ」の観点から探ってみよう。

インターネットの普及、ブロードバンド、ワイヤレス環境の整備が進み、テレビをはじめとする映像コンテンツの視聴環境はここ十年で大きな変化を遂げた。

NetflixやHuluのようにドラマや映画を配信する業者が急成長を遂げ、Spotifyのような音楽コンテンツ提供サービスも人気を集めている。いつでもどこでも欲しいコンテンツが手に入るネット配信、ソフトごとではなく月や年単位で一定額を払うサブスクリプションは、ドラマや映画、音楽視聴の形を現在進行形で大きく変えている。

テレビの世界では、この変化はより顕著に表れている。

インターネット回線を介した動画や音声コンテンツ提供を行うOTT(Over The Top)と呼ばれる事業者やサービスが、新規参入を果たすと、これまでテレビ局が独占していたドラマや映画、スポーツイベントを提供し始めたのだ。

OTT事業者の登場で視聴者は「テレビ」という箱やテレビ局を介さなくても、好きなコンテンツを配信する業者と契約することでそのコンテンツを楽しむことができるようになった。ケーブルテレビ文化か根付き、ペイ・パー・ビュー(PPV)も浸透するなど視聴者の“専門化”が進んでいたアメリカでは、よりニッチなコンテンツを集中的に提供するOTTの影響でケーブルテレビとの契約を切る「コードカッティング」現象が巻き起こった。

OTT事業者の成長は、スポーツライツ、主にスポーツの放映権にも少なくない影響を与えることになる。イギリス企業であるパフォームグループのDAZNが日本のプロサッカーリーグ、Jリーグの放映権を10年で2100億円!という驚愕の高値、かつ長期契約で買い取ったのだ。一部には世界的なスター選手、イニエスタ(ヴィッセル神戸)の移籍にも直接的に関与したといわれるDAZNマネーの恩恵はいうまでもないが、これまで既存の放送局が手を伸ばさなかった世界中のスポーツがOTT業者によって価値を見いだされ、買われている現状がある。

需要と供給のバランスの上にかろうじて成り立つ放送局とOTTの秩序

世界中で放映権を買い漁り、放送局と肩を並べようとするOTT業者の隆盛を見ると、「テレビのスポーツ中継はすべてOTT業者に買い占められてしまう日が来るのでは?」「無料のスポーツ中継は姿を消してしまうのか?」という不安の声も聞かれるが、OTT、スポーツライツに詳しい複数の関係者に話を聞いたところ、既存の放送局がOTTに取って代わられる、無料のいわゆる“地上波”のスポーツ中継が消滅することはないというのが大方の見方だ。

彼らの念頭にあるのが、国によるスポーツの価値の違いを表すコンテンツの分類だ。

上表は、日本のスポーツライツの概要だ。分類法はさまざまあるようだが、世界のスポーツライツは、概ねTier1〜3に大別される。