サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会に日本代表が19日、いよいよ登場する。初戦の地サランスクへ向かうサポーターの多くが利用するのが、夜行列車だ。モスクワから12時間あまり。決戦へ向かうファンたちと一晩を過ごした。

【写真】ユニホーム姿で夜行列車に乗り込み、音楽を流して盛り上がるコロンビア人サポーターたち=2018年6月18日午後5時36分、ロシア・モスクワ、高野遼撮影

 18日午後5時すぎ。モスクワの駅で12両編成の列車に乗り込んだ。3等車に入ると、中はコロンビア人でぎっしり。「日本人はお前だけだぞ」と言われ、完全アウェーの雰囲気だ。

 50人以上が乗る一つの車両に、日本人は2、3人。ほかの列車は日本人も多いと聞いていたから、特にこの列車はコロンビア人が集中したらしい。

 通路の両側に2段ベッドがずらりと並ぶ。下段のベッドを椅子にして、あちこちで宴会が始まった。ユニホームを着て歌声を上げる人もいれば、スマホでW杯の中継をみる人も。陽気な雰囲気で、広大な平野を列車は進んでいく。

 車両は1〜3等車に分かれている。1等は2人個室で食事付き、2等は4人個室。こちらは比較的静かな空気が流れる。一方、3等は通路との仕切りもないため、自然と車内はにぎやかになる。運賃は3等車なら3千円弱。1等で1万円程度だ。

 食堂車では、コロンビア人がビール片手に決起集会を始めていた。「世界に住むコロンビア人が、ここに集まってきてるんだ」。町を歩いていてもコロンビアのユニホーム姿はかなり多い。「これが南米のサッカー愛さ。日本には負けないよ」と一人が言う。

 ヘクトル・ランダサバルさん(60)は、日本の若者2人の隣のベッド。「コロンビアは4年前より攻撃陣は向上したが、守備はダメだ。点の取り合いになるかもな」と力説していた。神戸から来た日本人の大学生4人組は「こんなに開放的な列車だと思わなかったけど、南米っぽい雰囲気も悪くないですね」。

 夜10時前、車内の電気が落ちても、客が持ち込んだスピーカーからラテンの音楽が鳴り響く。決戦を前に、盛り上がりは日付が変わっても続いていた。


 サランスクは今大会の11開催都市のうち、最も小さな町。普段は観光客も少なく「大型ホテルは以前は3軒しかなかった」と町の担当者は話す。W杯開催決定を受けて建設ラッシュが始まったが、4万人のファンを収容するのはとても無理。ホテル確保に苦戦する日本人ファンの間では「サランスク問題」と言われてきた。

 解決策の一つが「0泊3日の旅」だ。広大なロシアでは夜行列車が移動の定番。飛行機より本数も多い。試合前夜にモスクワを出発し、試合後に夜行列車に乗り込めば、ホテルなしで観戦が可能になる。特に今大会、チケットがあれば夜行列車の一部は無料になる特典もある。少し離れた隣町に宿泊するファンも少なくない。ある大手旅行会社のツアー客が泊まるのは約100キロ南のペンザという町。350キロ以上離れた町から片道6時間かけてバスで往復するツアーも企画されている。(サランスク=高野遼)

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