イビチャ・オシムは現在、グラーツに滞在している。当初は日本対パラグアイ戦を観戦にインスブルックまで出向くことも考えたが、最終的には自宅でのテレビ観戦となった。

 西野ジャパンが初勝利をあげた試合を、オシムはどう見たのか。

 中継がライブではなく、モスクワから電話をかけたときには彼の家ではまだ試合は終わっていなかった。そのことに筆者が気づかなかったため、途中まで会話は少しちぐはぐになっている。読者の皆さんには、そこを踏まえて読んでいただきたい。

1点目はとりわけ素晴らしかった。

 ――元気ですか。ようやく日本が勝ちました。

 「日本は良くなった。ずっとアグレッシブになった。前半は躊躇いがちで、成り行きを見守る様子があり、運悪く失点を喫した。展開がそうなるとちょっと難しい。特にワールドカップでは先制点は致命的だ。

 だが、ここまでに日本は大きな進化を遂げた。攻撃的なプレーができるようになり、得点も決めたうえにさらに幾つかの決定機を作った。それだけで悪くない。

 パラグアイのようなチームに対しては、喉元にナイフを突きつけるような戦い方をするべきではない。よく頭を働かせて、相手と同じように慎重になるべきだ。彼らは待ち構えて自分たちからは出てこない。後方に退いてカウンターの機会を窺っている。そうしたことすべてに対処しなければならない。

 しかし同時に自分たちが危険な存在であることも示さねばならない。待っているだけではチャンスは訪れず、試合に勝てないからだ。ゴールはいずれも素晴らしかった。とりわけ1点目は素晴らしい位置取りから、岡崎ではなかったが……」

日本流ティキタカは時代遅れではない。

 ――乾です。

 「ループ気味のシュートを隅に放ち、キーパーは触ることができなかった。日本が実践するティキタカ(バルセロナ流のパスサッカー)は、私はもう時代遅れだと思っていた。だが、ワールドカップでは、それが本当に過去のものかどうかがわかるだろう。他のチームもこのスタイルを実践するかどうか。

 ただ、日本に関してはとても合ったスタイルで、アグレッシブにプレーができる。機動性に富んだ日本流のティキタカで、それが実践できるのは素晴らしいコンディションにあるということだ。

 すべては頭の中で生じる。頭の中がすべてと言ってもいい。勇気を持つのも。もしも自分に自信が持てれば、それだけで大きな力を発揮できる。それができない理由はない。ただし相手もまた自分たちと同じだ。彼らにも同じ力がある。

 今日のここまでのパフォーマンスは、日本が優れたプレーができることを誰の目にも明らかにした。フィジカルがフィットしてテクニックも進化が見られた。ただ、まだ動きがあまり効果的ではない。求められるレベルまで達しているとは言い難い。というのもひと試合で得点機を10回は作れない。2〜3回のチャンスを生かしきるための効率は不可欠だ。

 しかし言うは易いが行うは難しい。練習で精度を上げていくしかない。パスやコンビネーションの精度はさらに上がる。ワールドカップを戦うためには、より正確な技術が求められる。

 それから守備に関しては、選手たちがどうすればいいかをもっとよく理解することを望む。あと少しのレベルアップが必要だ。

 ベンチには優れた控え選手たちがいて、彼らの力も頼りにできる。本田、ふたりの酒井も優れた選手だ。マルセイユでプレーする宏樹はもちろん、ハンブルガーSVの高徳も悪くない。彼らはそれぞれが経験を積み、頭の中が成熟している。シリアスで、日本が以前とは違うことを端的に物語っている。

 今の日本を誰も軽視することはできない。選手はみな俊敏でよく動く。ひとりで状況を打開できる力を持ち、1対1でも決して引けを取らない。とても危険なチームであるといえる。年齢がもたらした効果だ。

 南米のチームはどこも抜け目がない。見ろ、パラグアイがチャンスを作った。だがオフサイドで取り消された。まだレフリーは買収されていないようだ(笑)。とにかく日本が幸運に恵まれることを望む」

つづく

ナンバー 6/18(月) 11:31配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180618-00831102-number-socc