球速を抑えて、その分、制球を良くしようとは思わないかと聞いたときは、「正しいフィジカルで、正しい投げ方をすれば球速も上がるし、コントロールも良くなる」と言った。
160キロを投げる投手はそうはいない。それが155キロでもかなりの武器なのに、本人にはそれで良しとする意識がまったくない。米国でもここまで160キロ超の速球を連発していた。

「それが理にかなったフォームからの160キロならともかく、上体に頼った投げ方によるものだから、肘に負担がかかるのは当然。日本にいたころからフロントや栗山監督以下の首脳陣は大きなケガにつながらないかヒヤヒヤだった」とは前出のOB氏だ。

■「二刀流の重圧」

 メジャー挑戦のスタンスも、結果として右肘への負担につながった。

 大谷が1年目のキャンプから全米で注目されたのは「二刀流」の看板があったからだ。メジャーでの二刀流は何しろ、かのベーブ・ルース以来100年ぶり。ヤンキースの田中に「7年総額170億円」のプレッシャーがあったとすれば、大谷にはカネの代わりに「投打の二刀流」という重圧があった。

日本以上に選手の役割が細分化されたメジャーで、先発とDHという投打で重要なポジションを独り占めすることになった。割を食う選手が出るのは当然で、結果が出なければ不協和音が生じかねない。キャンプから結果を求めてフルスロットル、飛ばしてきたツケでもある。在米特派員のひとりがこう言った。

「投打に好スタートを切ったことで、全米が二刀流に注目。ちょっとした張りや痛みが申告しづらい状況だったのは間違いありません。今回の部分断裂にしても、そもそもはマメが発端だった。ソーシア監督にうながされてやむなく降板、冷静になってから右肘の異常に気付いたのです。
マメがなければおそらく続投したはずで、いま以上の惨事につながった可能性は高い。大谷は今回、通訳と2人だけでメジャー挑戦した。グラウンド外のことも含め、自分自身で新たな道にチャレンジする気概も楽しみもあったのでしょうが、体のケアをする個人トレーナーのような存在がいなかったこともマイナスだった」

松坂も田中もダルも米国に行ってから右肘靱帯を損傷した。メジャー公認球はプロ野球のものと比べて大きく、サラサラして滑りやすい。その分、しっかり握る必要があるため、前腕から肘にかけて負担がかかる。
メジャー挑戦した日本人投手が片っ端から故障するのももっともだが、大谷の右肘部分断裂はそれだけが原因じゃない。彼なりの理由があって、壊れるべくして壊れたのだ。