─しかし、ファンは大谷の二刀流を求めています。二刀流について疑問を呈す発言をすると、「考え方が古い」「若者の夢を否定するな」といった批判が大量に届きます。

私は大谷を批判しているわけではありません。元プロ野球選手として、心配をしているだけなんです。

そもそも、多くの人が二刀流をあおり過ぎです。大谷はこれからの野球界を背負う宝です。今回は肘のケガですが、このまま二刀流を続ければ肩を痛める危険性がある。
肘のケガから肩を壊した選手はたくさんいて、そうなると選手生命に関わるのです。その危険性があるのに、まだこのままで大丈夫なのかと言いたい。

多くの人はそれでもいいでしょう。ショーとして楽しんでいるだけですから。大谷の選手生命が途絶えても、その人達は責任を取るわけではない。無責任に二刀流を褒め称えてきた人たちは、これを機に考え直してほしい。

──プロ野球選手のOBでも二刀流賛成派はいますが、その根拠はあるのでしょうか。

OBの二刀流賛成派には2通りの人がいます。一つは大谷を褒め称えないと野球解説などの仕事に影響がある人。マスコミの論調に合わせないと仕事がなくなってしまうかもと忖度している。

もう一つは、少しこじつけになるが、素晴らしい成績を残したOB。大谷に自分の持っている記録を抜かれたくない人です。

大谷の才能は、打者としては松井秀喜以上、投手としてもダルビッシュ有(カブス)クラス。何十年に一人の逸材で、これから素晴らしい記録を残す可能性がある。
だけど、現在のメジャーの投打の記録に大谷の名前はありませんが、二刀流を続ける限り、過去の大選手の記録を抜くことはありません。

──二刀流の難しさはどこにあるのでしょうか。

簡単な話です。投手と打者を両方やると、どちらも練習不足になるし、無駄な疲労が出るからです。

野球に限らず、プロの世界は「頂点」を極める世界ですから、2つのことを同時にやるのは厳しいのです。投手だけ、打者だけに専念しても、ケガをする選手はたくさんいる。
それを防ぐために、すべての時間を費やして丹念に体のケアをし、厳しいトレーニングを続け、ケガをしない体作りをする。その時間が半分になるのですから、調整不足になる。それだけの話です。

──大谷は身長193センチで、165キロの速球を投げます。体の負担が大きいのでしょうか。

体の大小は関係ありません。体の小さい選手でもケガをする。ケガを避けるためには、自分の体と向き合い、その結果生まれてきた経験則を大切にしなければならない。
たとえば、今の投手は投げ終わった後に何でもかんでも肩や肘をアイシングしますよね。それは本当に正しいのでしょうか。
医学ではそれが定説とされ、みんなアイシングしていますが、過去に比べて肘を痛める選手は増えている。

であるなら、それも疑って調整しなければならない。定説であっても、時代が変われば間違っていたというのはよくあること。過去の選手はむしろ、冷やすことよりマッサージや体全体をほぐしていた。
そのどちらが正しいのか。これは最後は選手が自らの経験則から判断しなければならない。

二刀流を続けていると、投打ともに練習不足やケガがおきやすい。リスクが高まるのです。

──エンゼルスは日本ハム時代の起用法を踏襲し、メジャーでは異例の中6日登板とDHで起用してきました。

日本ハム時代、二刀流が成功した年はなかった。17年のシーズンで大谷の登板数は5で、3勝2敗。シーズン中のほとんどは足のケガの治療をしていて、打者としても65試合しか出場していません。

今季についていえば、復帰は早くて7月以降でしょう。そもそも、これまでも指のマメや足のケガで、中6日のローテーションも守れていなかった。
プロ野球選手は、1シーズンを通じて活躍できてはじめて1人前なのに、日米で失敗している。二刀流が去年同様うまくいかなくなっているのは、すでにDL入りしていることによって証明されたと言っていいのではないか。

──今後、二刀流はどうなるのでしょうか。

最後は本人が決めることだし、我々がどちらかにせよと言う権利はありません。いずれ、どちらかにせざるをえない時期が来るでしょう。

復帰しても、次に大きなケガをすれば選手生命に関わり、並の成績の選手で終わってしまう。
このことは、大谷の野球人生にとっても、球界の未来にとっても大きな損失です。無責任に二刀流をあおり立てることは、ほどほどにしたらどうでしょうか。