貴乃花親方のメッセージには立派な言葉が並ぶ。

「マニフェスト」と呼んだコメンテーターがいるが、マニフェストは政策集であって、これは抽象的な理念にすぎない。
 表明しないよりはましだとしても、遅かった。立候補届出の翌日が投開票という選挙制度自体が、事前調整を前提とした代物で、改革の必要はあるにせよ、
前日に有権者の親方衆に理想を訴えてもほとんど票にならないことは分かっていたはずだ。では誰に何を訴えたかったのか。

案の定、貴乃花親方落選の一報と同時に、こんな立派な親方を落とすとは・・・といった発言がテレビやネットにあふれた。

「相撲協会は生まれ変わる機会を失った」との声まである。
そんなことを言われたら貴乃花一門から当選した阿武松親方(元関脇益荒雄)は立つ瀬がないよなあと思いつつ、
角界OBに感想を求めると、辛らつだった。
「素人はだませても親方衆はだませないよ。そばで見てるんだから。第一、貴乃花はもう8年も理事をしてたんじゃないか」

 メッセージには厳しい協会批判が記されているが、当選4回は現職の親方理事9人と比べると、鏡山理事(元関脇多賀竜)と並んで最多だ。
今の相撲協会のありように重い責任を負う立場にある。しかし、文章の中には自省も自戒もない。

 決意表明だけではない。元日馬富士の傷害事件以来、被害者の立場であっても、やること成すことタイミングが不自然で真意が不可解だった。
一部に危機管理委員会の中間報告と食い違いはあっても、解任から1カ月近くたって出す意味はどこにあったのか。

 報道を受け、春日野親方は当時の北の湖理事長と危機管理担当顧問に報告済みだと説明した。危機管理部長は貴乃花親方だった。

報告したのが事実なら、「広報」するか否かも含め、事件を相撲協会としてどう受け止めるべきかは、貴乃花親方が信頼する理事長とその顧問、
そして貴乃花親方自身の判断だったことになる。

2月下旬、元関脇寺尾の錣山親方ら3人が、時津風一門を離脱し、当面無所属で活動することになったのだ。
 貴乃花親方シンパとみられていた親方だけに、いよいよ「隠れ貴乃花」が顕在化し、打倒八角体制へ動くと喜んだコメンテーターもいたが、

冷静に見ていた人たちが注目したのは「協会のルールの中で」の部分だった。

元日馬富士の事件をめぐる貴乃花親方の理事としての対応などが念頭にあるのだろうと。

相撲協会の選挙はたいがいのことは「何でもあり」。大学や各種団体の選挙も似たり寄ったりだが、貴乃花親方も過去4回、
きれいごとだけで票を集めたわけではないことは、協会内でよく知られている。それならなおさら実績が必要だった。

相撲教習所長、監察委員長、審判部長、大阪場所部長、危機管理部長、総合企画部長、巡業部長などを歴任して、
期待されたような活躍をしたわけではなかった。大相撲人気回復に寄与したファンサービスを全て貴乃花親方が考えたかのような報道があったが、
ひどい誇張だ。

 仮に意見を述べても圧殺されたのなら、その時点で外に向けて発信してもよかった。
選挙前日の抽象的なメッセージが、親方たちに届くはずはない。2票で落選。数日前、ベテラン親方が「貴乃花は裸の王様状態らしいね」と言った通りの結果になった。