短期的にスポーツを強化する最大の手段が帰化選手だろう。初の冬季五輪として平昌五輪を開催する韓国では約150人の選手のうち10%に当たる15人が欧米などからの特別帰化選手が占めた。冬季スポーツが弱いとされる韓国は今回の五輪で金メダル8個などを獲得し、総合4位を目指している。そのための切り札が特別帰化選手だが、賛否両論に分かれている。特別帰化選手は元の国籍を放棄せずに済み、五輪後も韓国に残って強化に携わるのかと懐疑的な意見もある。

 中央日報によると、平昌五輪の特別帰化選手は種目別にアイスホッケーが最も多くて10人、次いでバイアスロン3人、フィギュアとリュージュが1人ずつとなっている。出身国はカナダ(8人)、米国、ロシア(ともに3人)、ドイツ(1人)と冬季スポーツ強国である。自国で代表チームから外れた選手が、五輪出場の機会を求めたというのが大方の見方となっている。

 大韓体育会(韓国オリンピック委員会)は2010年から体育分野の優秀な人材を特別帰化を通じて積極的に受け入れてきた。純血主義が強い韓国では外国人の帰化に消極的だった。だが、法務省は2011年に国籍法を改正し、スポーツや学術、経済など特定分野で優秀な能力を有する人材で、国益にかなうと認められる人物に限り特別帰化を認める方針にした。帰化すれば通常は元の国籍を失効するものだが、特別帰化では元の国籍を放棄しなくて済み、「外国人選手には魅力的だ」と中央日報は指摘する。

 平昌五輪には約90カ国・地域から約6500人の選手が参加、4年前のソチ大会を超えて過去最多。その中で韓国は、金メダル8個、銀4個、銅8個の獲得を目標に掲げている。スピードスケート、ショートトラック、スケルトンを除けば、「世界水準と格差が大きい」(中央日報)という韓国冬季スポーツにとって、“助っ人”の外国人選手は命脈になる。

 実際、7人の特別帰化選手が加わったアイスホッケー男子代表は昨年4月、世界選手権で史上初めて1部リーグへの昇格を決めることになる。中央日報は、アジアの舞台でも苦戦していたチームが特別帰化選手の合流によって技量が急成長したと指摘した。7人はNHL(北米ナショナルホッケーリーグ)選手になれなかったが、欧州で活躍したベテラン選手だという。

 バイアスロンにはロシア出身の3人が加わった。30歳のアンナ・ブロリンは2010年バンクーバー五輪の女子スプリント4位の実績を持つ。昨年の世界選手権で韓国に史上初のメダル(銀、銅)をもたらした。女子リュージュのエイリン・ブリシェ(26)はドイツ国籍時代だった2012年の世界ジュニアで2冠を獲得していた。

 ただ、毎日経済新聞は楽観論を廃し、金メダルの獲得はおろか、メダル圏内に進出することを期待するのは難しいと指摘。元の国で国家代表に選抜されず、帰化を介して五輪出場しようという選手ばかりだからだという。

 さらに、帰化選手が15人に上ることで、国内で賛否両論で議論になっている。薄い選手層の不人気種目には大きな助けになる。その半面、過酷な環境でも最善を尽くしている国内組の選手のモチベーションを低下させ、結局は弱体化させるためだという。帰化選手に国民が感情移入できるかも問われている。

 また、特別帰化選手が元の国籍との二重国籍であるため、五輪後も韓国に残って、その種目の競技力向上に努めることを期待するのは難しいだろうとソウル大の教授は毎日経済新聞で指摘した。

 韓国社会は勝利至上主義だと韓国メディアは指摘する。特別帰化選手はその趣旨に合致した存在だが、1992年バルセロナ五輪男子マラソンの金メダリスト、ファン・ヨンジョ氏(47)は「韓国はスポーツ強国を超えて先進国にならなければいけない。帰化を通じて成果を出すことばかり考えるべきではない」と中央日報に話している。


2018.2.11 18:00
http://www.sankei.com/pyeongchang2018/news/180211/pye1802110001-n1.html