【デスクの目】今回起きた「人的補償拒否問題」は、FA移籍のシステムそのものを揺るがす重大な「あしき前例」となりかねない。

 人的補償で指名された選手が「移籍するのは嫌なので引退します」がまかり通れば、今後はベテラン選手を怖くて指名できなくなる。人的補償で獲得した選手が
直後に引退してしまえば、指名した球団は丸損だからだ。このやり方でベテラン選手を「もし指名されたら『引退します』と言えばいい」と言い含め、
ベテラン選手をこぞってプロテクトから外そうという球団も出てくるかもしれない。

 そうした事態を防止するためには、各球団の良識に任せるのではなく、早急にルールの整備が必要だ。たとえば「人的補償で移籍した選手がすぐに引退してしまうなどした
場合は、追加で割り増し補償金を支払う」「球団に罰金などのペナルティー」など、問題が発生したら、後から罰則を加える方式。もしくは「選手をプロテクトから外す場合は
事前に通告して同意を得る」「同意を得られない選手をプロテクトから外してはならない」と事前に対策を施す方式か。この場合、プロテクトから外れることに
同意しない選手は球団の判断で解雇される可能性もある。こうした事前、事後の対策を同時に行えば、今回のような事件は起きないはずだ。一部の球団などからは
「人的補償そのものをなくしてしまえ!」という意見も出るかもしれない。

 トレード拒否事件といえば、巨人の定岡正二が近鉄へのトレードを拒否して若くして引退した事件が有名だ(注)。しかし、トレードならば話が消滅するだけだが、
FAの人的補償はルールにのっとったもの。ここに「抜け穴」があってはいけない。