【貴乃花処分関連法律・定款】
●懲戒処分について
日本相撲協会定款(以下「定款」と言う)第32条
1 理事又は監事が、次のいずれかに該当するときは、評議員会の決議によって解任することができる。
(1) 職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき
●協会主張の職務違反について
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法」と言う)第83条準用の第197条
理事は、法令及び定款を遵守し、一般財団法人のため忠実にその職務を行わなければならない。
●争点となる『職務』は以下の通り。
・法第85条準用の第197条
理事は、一般財団法人に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監事に報告しなければならない。
・定款第28条
1 理事は、理事会を構成し、法令及びこの定款で定めるところにより、職務を執行する。
2 理事長は、法令及びこの定款で定めるところにより、この法人を代表し、その業務を執行し、業務執行理事は、理事会において別に定めるところにより、この法人の業務を分担執行する。
3 理事長及び業務執行理事は、毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。

【考察】
●法第85条準用の第197条について
相撲協会は、この条文により貴乃花理事に事件の報告義務があったとするが、甚だ滑稽な物言いだ。
貴乃花は、相撲協会に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見していない。
『著しい損害』は相撲協会所属の力士が暴行し、相手に傷害を負わせたことである。
その『おそれ』なので、傷害事件発生前の事前通報義務を指すことになってしまう。
よって、当該条文を懲戒処分の根拠にする協会の主張は不当である。この条文は本件には全く当てはまらない。
●定款第28条については、
・1項でまず理事の職務を法令及びこの定款に限定している。理事の職務に理事会決議・その他のルールは含まれない。11/30の理事会決議も理事・巡業部長に効力をなさない。
・2項で部長は、相撲協会の業務を分担執行していることが記されている。
巡業部長の職務は地方巡業の実施運営を行うというものであり、協会員の生活指導に当たり適当な指導を行うのは生活指導部長の職務と協会HPに明記してある。
なお、貴乃花の地方巡業の実施運営は滞りなく終了しており、巡業部長としての職務違反や職務怠慢はない。
・3項でも、貴乃花は理事会にて貴乃花報告書を提出して、理事会への報告義務を全うしているのである。
●よって、貴乃花は今回の事件に関して職務を全うしており、定款第32条の懲戒事由である『職務』上の義務に違反し、又は『職務』を怠ったときには当たらない。
また、蒼国来無気力相撲懲戒処分無効確認訴訟で、裁判所は、協会と蒼国来の契約は労働契約とは言えないものの、懲戒処分であること等から鑑み、労働契約法15条等の懲戒権濫用法理の類推適用を認め、懲戒処分を無効としている。

以上、日本相撲協会による貴乃花に対する懲戒処分は、無効である。