■【2018大予測】村上春樹さん、今年もノーベル文賞は取らない? 「女性の扱い」問題か

 2017年10月のノーベル文学賞に選ばれたのは、長崎生まれの英国人作家、カズオ・イシグロさん(63)だった。日本出身の作家としては1968年の川端康成、94年の大江健三郎の両氏に続いて3人目、23年ぶりとなる受賞はテレビでも大きく報じられ、イシグロさんの邦訳8作品は増刷を重ねている。出版界が久々の明るいニュースに沸く中、やはり気になるのはここのところ日本のファンの期待を一身に背負ってきた世界的な人気作家、村上春樹さん(68)の受賞の可能性だ。ノーベル文学賞の選考は言語や国・地域などのバランスを考慮しているともいわれる。ならば、日本にルーツを持つイシグロさんが賞を射止めたことで村上さんの受賞は遠ざかるのか? そもそも村上作品は「ノーベル賞向き」なのか? 専門家に話を聞いて、探ってみた。

■機運はしぼんでいる?

 「村上さんの受賞、難しくなったんじゃないですかね…」
 17年12月15日夜、東京都内で開かれた文学賞「野間文芸賞」の受賞記念パーティー。グラスを傾けて談笑していたある出版社の文芸編集者に村上さんのノーベル文学賞について水を向けると、そんな答えが返ってきた。
 歓談の輪が広がるにぎやかな祝宴会場にいた1時間余り。複数の出版関係者に同じことをそれとなく聞いて回ったが、答えは似たり寄ったり。村上さんのノーベル文学賞受賞に期待する機運は、以前よりもしぼんでいる印象を受けた。

 こうした見方が出てくる要因はやはり、日系英国人作家であるカズオ・イシグロさんの受賞だ。
 日本人の両親のもと長崎で生まれたイシグロさんは父親の仕事の関係で5歳のときに渡英し、後に帰化した。日本を舞台に据えているのは、長編デビュー作「遠い山なみの光」と「浮世の画家」だが、他の作品にも繊細な美意識など日本的な感性を読み取る人は少なくない。

 「イシグロは英語で書く英国の作家だけれど、海外の研究者らの間でも『日本文学の一翼を担っている』と認識され、よく日本との関係で論じられる。半ばは“日本の作家”ともいえます」
 そう話すのは、現代の世界文学事情に詳しい東京大学教授の沼野充義さん(ロシア・ポーランド文学)だ。

 「選考する側のノーベル賞委員会は表立って言いませんけれど、過去の受賞者のリストを見ると受賞者の国や地域の配分を考えているな、というのはうかがえますよね。今回のイシグロの受賞でノーベル文学賞における日本のプレゼンス(存在感)が高まった。同じ国や地域から受賞者を出す場合、少しでも間隔を空けるのが普通ではないかと思います」
 実際、116年にも及ぶ賞の歴史で2年連続で同じ国の書き手が選ばれた例はない、という。

■今回は「日本作家」を意識していた?

 地域バランスから見れば18年の村上さんの受賞は難しい−。「村上春樹はノーベル賞をとれるのか?」(光文社新書)の著者で、文芸評論家の川村湊さんも、そうみている。
 「少なくとも今後2、3年は村上さんの受賞はないのでは…。最近受賞者を出していないイタリアやポルトガルなどにも大物作家はまだいる。そうした存在を差し置いて日本出身の作家が連続して選ばれる、ということは考えにくいからです」

 ただ、川村さんは「これで受賞の目が全くなくなったわけではない」とも話し、こう言葉を継いだ。
 「今回は、選考サイドも3人目となる“日本作家”の受賞者を意識していて、カズオ・イシグロとともに村上春樹さんも最終候補となっていた−というのが私の推測です。地域バランスが考慮されるとはいっても、英仏独などに関しては良い作家がいればその都度与えられている印象がある。今回、村上さんが“惜しくも受賞を逃していた”のであれば、いわゆる『日本枠』とは関係なく、何年後かに晴れて賞を受ける可能性はあります」

■「カフカ賞」受賞で期待ふくらむ

 そもそも村上さんがノーベル賞の有力候補と目される背景には、現代の日本人作家では群を抜く人気と実績がある。
 村上さんの小説は1980年代から海外に紹介され、現在では主要作品が約60もの言語に翻訳されている。2006年にはチェコの文学賞であるフランツ・カフカ賞を受賞。この賞の受賞者が2年連続でノーベル文学賞に輝いていたことから周囲の期待は一気にふくらんだ。ここ数年は欧米のブックメーカー(賭け屋)で人気上位を維持している。

http://www.sankei.com/premium/news/170103/prm1701030030-n1.html