「おおかみこどもの雨と雪」などで世界中に多くのファンがいるアニメーション作家、細田守監督(50)の新作プロジェクトが動き出した。2018年7月公開の「未来のミライ」で、4歳の男の子が主人公になる。東宝本社(東京都千代田区)で開かれた製作発表記者会見では、大勢の取材陣が集まる中「現場が面白がっている感じがいいなと思っていて、自分で言うのも何だが、ひょっとしたらちょっと見応えのあるものになりそうな気配がしている」と自信をのぞかせた。

 ■人間は愛なしには生きられない

 「未来のミライ」は、4歳の男の子、くんちゃんに妹のミライができ、それまで一身に浴びていた両親の愛を妹に奪われたように感じるところが出発点になる。いじけるくんちゃんの前に未来からミライちゃんが現れて、ちょっとした冒険が始まる、という展開だが、細田監督は「世界の危機といった映画的サスペンスというよりも、もうちょっと自分自身を探す旅だったり、遠い昔のどこかに誰かがいたりして、だんだんこの世の中を開いていく、分からないことを開拓していく、そんな冒険になると思う」と説明する。

 アイデアのベースは、細田監督自身の2人の子供だった。5歳の男の子と2歳になる女の子がいるが、2人のリアクションを見ていると、この世の中は何か豊潤(ほうじゅん)ないいものがたくさんあふれているのではないか気づかされ、そういう世界の広がりを映画を見る人と共有できれば、との思いで作っているという。

 「僕は一人っ子なので、兄弟がいる感覚ってよく分からなかった。下の子が生まれるまで上の子は一人っ子だったわけだが、下の子が生まれた瞬間、親の愛、特に母親の愛をめぐる狂おしいばかりの争奪戦が起きて、ああ、人間というのは愛なしには生きられない、愛を奪われた人間というのはこのようにひどいことになるんだ、と感じた。失った方は、その後、愛について何を考えて、どういう答えを出すんだろう、といったことを、子供を見ながら考えました」

 ■家族には本質的なものが垣間見える

 すでに絵コンテはできあがっていて、今は作画を進めながら、同時に声の出演者のオーディションをしている段階だという。上映時間は、119分だった前作の「バケモノの子」と比べると短い100分前後になる見込みだ。

 映画の舞台は横浜市で、中でも中心部から少し外れた磯子区や金沢区近辺になる。「どうしてそこが舞台かというのは内容に関連があって、この家族にとって重要なことが過去に起きた場所という理由がある」とほのめかす。

 細田監督といえば、「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」と、常に家族を描いてきた。今回も兄と妹という家族関係がモチーフになるが、「家族は興味が尽きないモチーフだと思う」と強調する。

 「家族を描くことは今日的ですからね。家族そのものが時代に伴って変化しているし、変化している分だけ描く必要のあるモチーフでもある。子供だろうが大人だろうが、そこには本質的なものが垣間見えて、それがいとおしいものになるのだろうと思います」

 ■世界57カ国から配給の要望が殺到

 海外でも人気の細田作品だけに、記者会見には外国メディアも出席し、熱心に質問を投げかけた。

 フランスの記者から、4歳のくんちゃんの丸っこいキャラクターについて聞かれた細田監督は「男の子のかわいらしさを描くというのは、本当に作画をしていて楽しい。スタッフもみんな描いていて楽しいと言っているし、題材的にアニメーションに向いている。子供のほっぺたって何とも柔らかくて冷たくて気持ちいい。そんなことも表現したくなるようなかわいらしさがあって、何とか頑張って4歳の男の子の魅力を伝えたい」と力を込める。

 また韓国の記者からは、韓国をはじめ海外でも公開前のプレミア上映をする予定はないかと、要望に近い質問が飛んだ。これには同席した齋藤優一郎プロデューサーが「一番いい形で世界に出していきたいし、長く見続けてもらいたい。そのことを一番に考えて、各国での届け方にさまざまな試みをしていくつもり」と返答。