文盲アンチ 「相手の名前を忘れる君縄は笑い物ニダ!」??


第37回日本SF大賞 選考経過 選評
http://sfwj.jp/awards/Nihon-SF-Taisho-Award/37/20170507033854.html

選評 長谷敏司

新海誠監督作品、『君の名は。』を、自分は推していました。
シンプルな、君の名前が思い出せないという問いで進めてゆく
力強さも、美しいビジョンも、切なく広く感情移入できるドラマも、
飽きさせることのないテンポも素晴らしいものでした。
ビジョンとテンポとドラマを並列させるのは本当に難しいのですが、
見事な手並みでした。

戦略的に、過剰なほど軽く作られていることも考えさせられました。
本作では、本来ならもっと時間をかけていい展開や情感を、どんどん
展開させて埋もれさせてしまいます。そのおかげで、見ているあいだ
情感が刺激されたり感情移入したりした体験が、不思議なほど
映画館を出るとその細部が消え落ちてしまいます。

これは、作中で主人公たちが体験する「大事なことがあるはずなのに
思い出せない」感覚を、鑑賞者も情報の氾濫で大事なことを見失うことで
追体験しているといえます。
明らかに企みがあってテーマの主軸と表現が一致しているのだから、
独自のスタイルを備えているわけです。
このため、何度も見にゆくリピーターが出たのでしょうし、この感覚の
普遍性が広く観客の心をとらえたのではないでしょうか。
エンタテインメントとして奔流のように見所を浴びせるという
かたちだったからこそ、前提知識を必要とせず中高生や若い層に
しっかり届くほど間口が広がったと思えるのです。
実際、この体験は気づいてみると上質なものでした。

小説でこれほど万全に備わっているものが現れたら、百パーセント
押すので、減点法で評価しづらかったこともあります。
オールタイムベストがレイ・ブラッドベリの自分にとっては、
これほどの美しいイメージと情感が広がって、確かな物語が
詩情豊かに息づいていれば、細かい瑕疵は問題にならないと
考えていたのです。