伊達さんは40代の希望の光とみなされた。何かを達成するのに、年齢で制限してはいけないと教えてくれたのだ。

伊達さんにとって、テニスは再び楽しいものになった。良い結果を出さなくてはというプレッシャーを、もう感じなくなったからだ。

「練習が楽しいし、トレーニングが楽しい。ツアーに行くのも楽しい。すべてにおいて楽しかったですね。あの頃と同じツアーを回っているのに、これだけ180度違う。同じ自分なのに、こんなにも人生変わるのかなというくらい違います」

しかし家庭生活では、新たな戦いに直面していた。

「もともと私はずっと子供がほしかったんです」

実は伊達さんは、母親と同じような専業主婦になりたかったのだ。

「プロを意識するようになってからも、数年はテニスでプロでやってみて、でもどこかの段階で早めに結婚して、専業主婦になりたいと考えていました」

しかし不妊治療を経ても、伊達さんと元夫は子供を授からなかった。これまでとはまったく違うタイプの挑戦だった。

伊達さんが言うには、テニスでは努力すれば結果が出る。もし失敗しても、その失敗から学べば将来の成功につながる。しかし子供はそういう問題ではなかった。

「また現役に復帰するとなったら、子供はできなくなる。自分の性格上、テニスのウェイトが大きくなると、どうしても。テニスもしたいし、子供もほしいというジレンマと戦い、ストレスがすごくたまっていました。今でも女性として子供を産むということに対して、本当に数%とかなり可能性が低くなってきているなかで、捨てきれてないところがないと言ったらうそになります」

しかしアスリートとしては、幸せだと感じている。

「最初のキャリアの時は、世界のナンバー4まで上り詰めることもできて、グランドスラムのセミファイナルという経験もできて、自分としてはやりきった感じがありました。まさか40歳という年齢でトップ50を経験できるとは、考えてもみなかった。誰もが経験できることではないと思います」

「私はテニスコートは人生の縮図みたいなものだと思っています。色々な喜びもあれば、悩むこともあり、落ち込むこともあれば、決断しなければいけない瞬間がたくさん訪れます。2回目のキャリアを楽しみながらできた経験は、他のものには代えられないと思う。それだけのものを与えてもらったテニスに感謝したいし、それだけの時間のなかでサポートしてくれた人たちにも感謝したい。ここまでやってこられた自分自身にも誇りを持ちたいと思います」

今年9月に2度目の引退を表明すると、多くの日本人アスリートが伊達さんに感謝の言葉を送っていた。伊達さんが手本を示してくれたと。最近では、世界を舞台に活躍する日本人アスリートが非常に増えている。伊達さんの長いキャリアは、多くのアスリートに勇気を与えてきたのだ。

国際的に活躍するサッカーの香川真司選手は、ツイッターでこう書いた。「その勇姿が、教えてくれた。年齢はハンデじゃない。経験というアドバンテージなんだ、と」。

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