広い意味での「歌手」の中での演歌歌手

――31年目を迎えて、坂本冬美さんはご自身をどんな資質の歌手だと考えていますか?

決して器用じゃないんですよ。器用じゃないけど、カメレオンみたいにその世界に染まれる体質なのかなと。
いろんな歌手の方とジャンル問わず歌うと邪魔にならないで一緒に歌えるんですよ。
そういった意味では、誰にでも寄り添って歌える声質なのかなと。



――真逆なのですが、坂本冬美さんの歌の圧倒的な巧さがあるからこそだと思っていました。

ありがとうございます、それは嬉しいことです。
でも、自分では意外と邪魔にならないから、いろんな人とできるのかなと。そういう柔軟性はあるのかと思っていました。



――坂本冬美さんのキャリアを振り返ると、さまざまな苦難や変化に対応してきたからこそ現在があるように感じられます。その柔軟さの秘訣はどこにあるのでしょうか?

まずスタッフにあると思います。スタッフがいろんなことをやらせたがるじゃないですか(笑)。
これでも「あれは嫌だ、これも嫌だ」と言っているんですけど、その中でも「これだけはやっておきなさい」と言われることがあるんです。
スタッフのアンテナが張り巡らされていて、選んで持ってきてくれてますね。
柔軟性をもってやってきてくれたのは、私というよりスタッフなのではないかなと。



――さすがにご謙遜では?

そう思うでしょ? 私、本当にやりたくないことばっかりなの(笑)。
本当にそうなの。今までやってきたことは、その中でも「わかりました、やりますよ」って言ったことなんですよ。
自分は何か月も前から準備しないとできない人なんですよ。
簡単に「シャンソンを歌え」と言われても、何か月も前から練習しないとお客様の前で歌えない人だから。
それを簡単に言ってくるから「嫌だ」とも言いますよね。その中でも「これはやってください」と言われたものしかやってきてないんです。



――そうしてやったことが大きな反響を呼んできたわけですね。

スタッフが私から引き出してくれているんだと思いますよ。
私だけだと、まずわからないもの。本当に今いろんな歌を歌わせていただいて、「本来の私はどこにある?」と思うときがあるんですよ。
「もしかしたら演歌よりこっちのほうが合ってるの? いやいや、演歌を歌ったときのほうが気持ちいいんだよな」とか。
だから、どれが一番自分らしいのかわからなくなるときがありますね。



――その結論は?

今思ってることは、今まではかたくなに「演歌歌手・坂本冬美」でしたし、それは崩さない。
でも、広い意味での「歌手」の中に演歌歌手があってもいいじゃない、ってね。
ただ、新聞に載るときは「演歌歌手」だから、私は間違いなく演歌歌手なんです。それがあって、いろんな枝葉が広がっているイメージでいいんじゃないの、って。
その中で自分が「これは歌ってみたい」と思うものにチャレンジして、気がついたら大きな幹になり、枝葉が出てきたね、っていうような歌手になれればいいんじゃないかなと思っています。

https://youtu.be/sD1JaW0YXgI