■公認キャンプ地はどこになるのか

組織委は公認キャンプ地の選定に際してグラウンド(ピッチ)に関する基準などを盛り込んだ100ページに及ぶ募集要項を作成。キャンプを誘致したい自治体はこのガイドラインに沿って準備を進め、手を挙げた。
これまでに37都道府県にわたる90自治体が76カ所で立候補し、決定を心待ちにしている。

しかし、多くのキャンプ地でピッチやホテルなどの施設は「ワールドラグビーが考える水準にマッチしていないのが現状のようだ」(ある自治体の誘致担当者)という。
これについて組織委は、「自治体が提案してきた構成施設の中身について現在調整を行っている状況」と説明している。


では、肝心の試合会場についてはどうなのだろうか。

イングランド大会では、試合が行われた13会場中9会場で天然芝と人工繊維を組み合わせた「ハイブリッド芝」が使われた。これを使ったフィールドは、多くの雨が降っても激しいプレーでも崩れることがないという特徴がある。
一方、日本では天然芝を使うのが一般的で、時期によっては土がむき出しになってしまうところも少なくない。これについて組織委は「欧州と日本では張ってある芝が違うので、比較するにも基準が違う」と話している。

目下、国内ではノエビアスタジアム神戸を皮切りに、日産スタジアムなどでハイブリッド芝への張り替えが決まっており、W杯本番に向けて徐々に「芝が?げたピッチ」からの脱却が図られることだろう。

ピッチのコンディションよりもさらに大きな懸念として持ち上がっているのは、観客のスタジアムへの足の確保だ。
ワールドラグビーや組織委は、試合そのものをはじめとするスタジアム内部に関するオーガナイズを管轄しているが、観衆のロジスティクスや交通整理などスタジアムの外で起こることは開催地の自治体が管理するという住み分けとなっている。

組織委の嶋津昭事務総長が目指すように、幸いにも「W杯全試合で満席」となった場合、どの会場にも数万人の観客が短時間に押し寄せるうえ、地理不案内な外国人へのケアも考える必要があり、どんな状況が生じるか未知数だ。

ある外国メディアによる「関係者は2002年サッカーW杯を無難に終えた経験を当てにしているようだ」という辛口論評も見掛けるが、確かに多くの会場でシャトルバスによるピストン輸送に頼らざるをえない。
関連の各自治体では今後、観戦に来るファン層の拡大だけでなく、当日の運営について頭を悩ますことだろう。

■伝統国からのサポーターが満足できるか

筆者の予想では、目下ラグビーの国際試合などで空席が目立つものの、W杯では席が意外と埋まるどころか、試合によっては抽選がかなりの高倍率になる可能性さえもあると見ている。
現状で「W杯をスタジアムで見たい」人の割合は、ランダム調査で8%、開催自治体で9%にも上っているからだ。

仮にラグビーを見る層の対象人口を4000万人としても8%なら320万人となり、前回のイングランド大会で販売された247万枚を上回ることになる。
これに海外からの観戦客が入手する分もあるので、チケット購入は想像以上の激戦になるかもしれない。

W杯の期間中に日本を訪れる外国からの観戦客について、組織委は「前回のイングランド大会の数字から判断すると延べ40万人ほど」と試算している。
数週間にわたって応援を続ける、ラグビー伝統国からのサポーターたちが日本での滞在中に満足できるように対策を打つことも、課題のひとつとなるだろう。

ラグビー日本代表はこのあと、10月28日に福岡のレベルファイブスタジアムで世界選抜と、そして11月4日には前述のように横浜の日産スタジアムでオーストラリアと戦うことが決まっている。
世界選抜チームには約2年ぶりに日本でプレーしている「キック前のポーズ」で有名となった五郎丸歩選手が加わった。

また、11月2日にはいよいよW杯本戦の試合スケジュールが発表となるなど、しばらくの間はラグビーにかかわる報道が続くことだろう。
「この数カ月間は、大会を成功に導くために厳しい時期となる」(統括責任者のギルピン氏)。大会期間は44日間。開会から閉会まで17日間で終わる東京五輪よりも圧倒的に長く、試合会場も北海道から九州までの広範囲にわたる。

はたして、大会の準備はしっかりと進むだろうか。

さかい もとみ :在英ジャーナリスト


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