そこから見えてくるのは、アイドルとファンとの幸福な関係性だった。地下アイドルは、おもにライブハウスや路上でライブをする。当然、ファンとの距離は近くなる。ガードマンもいない。だから、メジャーなアイドルよりも生臭いことがあるのではないかと想像していたが、それは杞憂だった。事務所が守ってくれないからこそ、そこにつく客の良識が問われるのだ。

本書には、地下アイドル自身が書くからこその視線の優しさが、随所にあらわれる。それはアイドル自身へ向けたものだけでなく、ファンの男の子たちへも向けられる。

(引用はじめ)
 そういえば私はずっと、ファンの人たちが、「つまらない」と口にしないのを不思議に思っていました。
 最初は、控えめで優しい性格のために言えないのか、あるいはわざわざ地下アイドルにネガティブなことを伝える必要がないからかと思っていましたが、次第に彼らは普通の人だったらつまらないとか、稚拙だと感じるようなことでも、すぐに魅力を見出して楽しむことができる人たちだからなのだと気が付きました。
(引用おわり)

昨年、小金井市でシンガーソングライターの女性をファンが刺すという殺人未遂事件があった。多くのマスコミは、それを「地下アイドルとキモいオタクの危険な関係」という構図で報道しようとしていた。だが、それは事実と違う。犯人はオタクだから刺したのではないし、地下アイドルの現場はファンとのあいだに痴情のもつれが生まれるようなものではない。そもそも、被害にあった女性は地下アイドルでさえなかった。

こうした先入観ありきの報道に対して、姫乃たまという人は「そうではないのだ」ということを徹底して訴え続けていた。いくつもの言葉と時間を尽くして、その誤解を解くよう努めていた。それは何よりも、彼女自身が地下アイドルというものを愛して、その場に立っている自分に誇りを感じていることの証しだろう。

この本を読むと、地下アイドルの現場に行ってみたくなる。そして、何よりも、姫乃たまの現場に足を運んでみたくさせる本でもあった。
(とみさわ昭仁)