勘違いに基づくバラマキ批判 - 森永卓郎 1/2

 財務省の矢野康治事務次官が、「文藝春秋」に発表した論文で、「今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです」と財政危機を訴えた。総選挙に向けてすべての政党が給付金の支給を唱えるなか、バラマキ合戦に警鐘を鳴らすために書かれたものだ。

 国家公務員は、不偏不党であることが求められる。財政政策は、選挙の洗礼を受けた国会議員が国会で決めるべきもので、単なる「使用人」が政治家の掲げる政策を批判する資格はない。しかし、矢野次官が、あえてそのタブーを犯したのは、相当あせっていることの証拠だろう。

 これまで財務省は、一貫して財政均衡を主張してきた。借金を増やすと、国債や為替が暴落して、日本をハイパーインフレが襲うと警告してきたのだ。

 しかし、そこに不都合な事実が発覚した。新型コロナの感染拡大に伴う莫大な財政出動だ。昨年度、日本政府は102兆円も借金を増やし、そこで発行された国債の半分近く46兆円を日銀が事実上引き受けた。財務省が掲げてきた財政理論に従えば、いまごろ国債の暴落と円の暴落、そしてハイパーインフレが襲っているはずだった。ところが、そうしたことは一切起きなかったのだ。