米国の国益に適う中曽根政権

 そしてシグールは、自民党が保守系無所属を加えてかろうじて過半数を維持し、社会党が議席を増やしたものの
共産党は減らしており、「日本が左翼化した訳ではない」と指摘した。また年明けの1月5日にもマクファーレンに
覚書を送り、選挙結果に拘らず日本には防衛力を増強させるべきとし、今後の政局を探るため東京への出張の許可を求めた。

 ちょうどこの頃、日本では次年度予算の編成が大詰めを迎えていて防衛費の増額、特にGNP(国民総生産)比
1パーセントの枠を突破するかどうかが焦点になっていた。日米首脳会談でも増額を表明しており、翌年秋にはレーガンの
再選をかけた大統領選挙も控えて対日圧力が高まっていた。

 来日したシグールは1月15日に都内のホテルで中曽根総理と私的な夕食会を持ったが、その模様がNSC文書に詳細に記録されている。

「総理は日米間の合意に従って一刻も早く防衛力整備を急ぎたいと語った。全てを達成するのは無理だが、防衛費の(GNP比)
1パーセント枠は突破したい意向で、一度これを破ってしまえば更なる増額への心理的障壁もなくなるという。総理は公式には
1パーセント枠を守ると表明しており、これは高度な機密情報である」

 国内ではGNP比1パーセント枠を守るふりをしながら密かに逆の本音を伝える、中曽根政権の維持こそが米国には国益に適う選択だった。