2002年10月、建造中の「ダイヤモンド・プリンセス」が火災を起こした。海上試運転を目前にした
超大型客船が36時間にわたり延焼し、およそ4割が焼失した。日本の造船史に残る大事故であった。

 その後、大型客船の受注は途絶えていたが、11年にクルーズ客船最大手の米カーニバル傘下のアイーダ・
クルーズから2隻を受注した。

 長崎造船所香焼工場で「洋上のホテル」と呼ばれる豪華客船は建造された。12万5000総トン、長さ
300メートル、幅37・6メートル、3300人乗りで、三菱重工にとって約10年ぶりとなる大型客船である。

 だが、アイーダ・クルーズから度重なる設計や資材変更を求められ、1番船の納入は3度も延期された。大型船
2隻の受注額は1000億円程度だったが、それを上回る2540億円の特別損失を計上する羽目に陥った。

 16年10月、大型客船事業からの撤退を表明した。機械・鉄構部門出身の宮永俊一社長(現会長)が会見で
漏らした言葉が印象的だった。

「造船は伝統もあってプライドも高く、それゆえの閉鎖性もあった」

 祖業である長船(ながせん、地元ではこう呼ぶ)のプライドの高さが、抜本的な改革を遅らせる盾になった
というわけだ。

 香焼工場は、大型客船の建造から撤退し、付加価値の高い液化天然ガス(LNG)と液化石油ガス(LPG)
運搬船に特化した。これも、中国や韓国勢の攻勢により仕事がなくなり、LNG船は19年9月を最後に生産が途絶えた。