退任後の報酬を現役時代に約束していたからって、そんなの本当にもらえるかわからないよ。それで有罪にできるのかね。それにしても、私が作ったガイドラインでひっかける
(逮捕する)とはね。これだけで終わってしまったら、私も後味が悪いな。

──日産の幹部社員で、特捜部との司法取引に応じた人がいるとのことです。亀井さんは警察時代に詐欺や脱税、贈収賄などを扱う捜査2課にいたことがありますね。

 司法取引は問題。人を売る話だからね。

 詳しくは話せないが、私も捜査2課時代に誤認逮捕しそうになったことが何度もある。なぜかというと、人間は他人のことなら平気でウソを言う。みんなウソっぱちを言うから、
捜査が間違った方向に進む。私の時代は司法取引はなかったけど、似たことはよくあった。
 長時間の取り調べで拘禁性ノイローゼになって、捜査官の都合のいいように証言する参考人や被疑者もいた。人格を否定され、自尊心が失われ、捜査官の機嫌ばかり取るようになるんだ。

 捜査には美学があり、常道がある。簡単に言うと、「カッコよさ」が必要。それが世間に理解されることで、はじめて捜査関係者は賞賛される。事件を無理やり作るような捜査は、私は評価しない。
 司法取引の最大の怖さは、えん罪を生むこと。あるいは、謀略によって他人をおとしいれることができる。殺人とは違って、経済犯罪は物証が少ない。経済犯罪での司法取引は、特に問題がある。

──事件の背景に、日産の43%の株式を保有し、経営への影響力を強めようとするルノーに日産側が反発していたことが指摘されています。

 フランス政府はルノーの筆頭株主だから、フランスがそう考えるのは当然のこと。好きなように言わせておけばいいんだよ。検察が正しい捜査をしていれば、逆に日本人に反発心が生まれて
「日本の司法に口出しするな」となる。ただ、ゴーンさんの逮捕については、いまだ全体像が明らかになっていないことは事実。今のところ「捜査の美学」が見えてこない。

──ゴーン氏以外の日産幹部たちの責任は。

 今回の事件で最も悪いのは、日産の幹部だ。親分が逮捕されたのに、西川広人社長以下、幹部たちは平気な顔をしている。ましてや、親分を裏切って捜査機関に協力したなんて許せない。
ゴーンさんの金の使い方が荒いなら、なぜ、逮捕される前に「親分、これはマズいです」とアドバイスしてあげなかったのか。企業統治がまったくなってない。
 日産の幹部には法的な責任はないかもしれんが、経営陣として、こういった状況になるまで放置していた道義的責任はある。「日本男児として恥を知れ」と言いたい。

──長期間の勾留など、特捜部の捜査手法に外国メディアから批判も出ています。

 法律は国によって違うんだから、そんなものは気にする必要はない。正しい捜査をしていればいいだけだ。
 それよりも、特捜部がゴーンさんを逮捕した後、日産の幹部はゴーンさんを会社から追い出した。こんなことが許されていいのか。世界に日本の恥をさらさないでほしい。
 私はね、ゴーンさんの経営手法には共感しないよ。コストカットで人を切って、自分は給料をたくさんもらうなんて、まったく理解できない。それでも、ゴーンさんが気に入らないなら、
企業内で処理する方法はいくらでもあったはずだ。それがなぜ、親分を捜査機関に売るようなことをしたのか。ジャーナリズムはもっとここを追及せんといかんよ。

──亀井さんも現在は一企業の経営をして、太陽光発電の普及事業などを手がけていますね。

 私はね、2011年の東日本大震災の後、原発事故の被害を受けて立ち入り禁止になった福島県の浪江町に行った。その風景は今でも忘れられない。牛が野放しにされていてね。今ごろ、
あの牛はどうなったのかな……。あれから、日本は脱原発、再生可能エネルギーしかないと思った。小泉純一郎(元首相)は全国で脱原発の宣伝をやってるけど、私は事業でやっていく。
兵庫県丹波市のゴルフ場開発が頓挫した土地で太陽光発電をやる。

 日産とは会社の規模が違うけど、会社を経営するには、軍隊でいう大尉、中尉、少尉と下士官と兵隊がしっかりと働いてくれることが必要。自分はそんなに仕事をしなくても、ウチの会社
には優秀な社員がいっぱいいるからね。私は、彼らと一緒に日本のためにこれからも働いていくよ。

──日産の経営陣に言いたいことは。

 私が日産の株主になって、総会で幹部たちを追及してやりたいぐらいだ。ゴーンさんだけではなく、幹部たちも総退陣だ。

(聞き手/AERA dot.編集部・西岡千史)