個人的には、3つ目と4つ目の説は違うのではないかと思います。総理官邸が、そもそも発覚したら大騒ぎになる危ない動き、フランスとの外交関係に悪影響をもたらす動きをするとは考えにくいですし、
米国政府がそこまで東京地検特捜部に影響力があるとは思えません。これら2つの説は陰謀論史観が強すぎると思います。

● 東京地検のリークにより 拡散するネガティブな情報

 したがって、おそらく真実は1つ目か2つ目の説になると思いますが、それが正しいとしたら、東京地検特捜部の独善性の強さが目立ってしまいます。特捜部が日産の現経営陣を利用したのか利用された
のかはともかく、結局は自分たちの組織の中の狭い論理だけで動いたようにしか思えません。

 しかし、これまでの経済事件のように日本人経営者を逮捕するだけならともかく、ゴーン容疑者のように外国人で、しかも世界的に有名な人物の逮捕となると、当然ながらその影響は国際的に波及します。

 実際、日本国内ではゴーン容疑者の悪事に関する情報ばかりが、おそらく東京地検からのリークにより毎日報道されているので、「ゴーンは悪いヤツ」という印象になっていますが、海外では日本の
刑事司法の特殊性(取り調べに弁護士が同席できないなど)が大きく報道されています。次は「外国人経営者だから疎まれた」「日本社会はやはり特殊で閉鎖的」といった報道になっていくのではないかと思います。

 もし、そうしたさまざまな影響も考慮せずに、過去の経済事件とのバランスも無視してゴーン容疑者を逮捕したとしたら、東京地検特捜部は司法とはいえ、組織の中での合理性のみが行動規範になって
しまっているという、官の組織の最も悪い部分を露呈してしまっているのではないでしょうか。

● お粗末な産業革新投資機構の騒動 ゴーン事件と似ている点とは?

 官民ファンドの産業革新投資機構をめぐる騒ぎも、日産の一件と比べるとスケールは小さいとはいえ、同様に官の組織の独善性の酷さを、ある意味で日産以上に明確に示しているように思えます。

 報道を見ると、最初は所管官庁である経産省が機構の経営陣に対して1億円以上の高い報酬を認めたのに、世間の批判を勘案してそれを撤回したことで、機構と経産省の対立が起きたようです。それに加え、
機構の業務への経産省の関与のあり方について両者の意見が異なったことや、機構が成長産業への投資という本来業務に加えて金融投資を増やす方針であったのに、経産省が反対したことなども対立を深めたようです。

 この問題でまず驚いたのは、機構は前身の組織(産業革新機構)の機構再編により今年9月に発足したにもかかわらず、それから3ヵ月も経っているのに、まだ経営陣の報酬の水準や組織運営のあり方が
決まっていなかったということです。

 この事実が、経産省の側の独善性を如実に示しています。おそらく経産省の側からすれば、2兆円もの巨額の投資資金を持つ自分たちの大事なペットアイテムの官民ファンドを存続させることが最も重要だったので、
本来は組織を建て上げる段階で、決めて当然の組織運営のあり方については、おざなりの対応をしていたのでしょう。だからこそ、今回のような騒ぎが起きたとしか思えません。機構の存続だけを重視した経産省の
独善的な思考こそが、問題とも言えるのです。

 かつ、もっと驚くべきは、機構の経営陣が高額報酬を下げられたのに反発したことです。当たり前の話ですが、機構が投資に使う資金や運営費は国民の税金が原資です。かつ、ファンドとはいえ本来は公共性の
高い業務を行う官の組織の一部です。

 そうした当たり前のことを考えれば、経営陣が前職の金融業界でどれだけ高い報酬をもらっていたとしても、それとは関係なく、官の世界の常識を元にした適正な水準の報酬を受け入れるべきなのは当然です。