0001名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 0adb-a7mP)2018/05/06(日) 19:44:08.39ID:ssj2vnT+0
サザエさん出演のタイコさんを主人公とした物語
退屈な毎日を送るタイコが青年に惹かれていくお話
書き留めたものを少しずつ投稿していきます
タイトル:「錆びた日々」
0171名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/26(土) 12:18:35.28ID:7rXzYp1F0
その感情は喜怒哀楽といった単一的な感情の突出とは違う、水の中で何色ものインクが溶けて複雑に幾重にも折り重なって交わるようなもの。そんな感情体験をしてしまえば、お互いを忘れた平穏の日常に戻ることは出来なくなってしまう。
麻薬をやめられない人や万引きをやめられない人の気持ちなんて理解出来ず分からなかったが、きっとその禁忌を犯す気持ちが私にも分かるようになってしまう。
直貴と会いたいけれど会いたくない。話しをするだけでも想うことですらも許されない関係にまで進んできてしまっている。これ以上はもう引き返せなくなる。先にあるのはただの茨の道。もがき苦しんでもだれも助けてはくれない道。
0172名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/26(土) 12:20:47.07ID:7rXzYp1F0
「ごめんなさい。私はあなたが私を思っているのと同じくらい辛く、苦悩しているわ。だからあなたの気持ちは分かるけど、無理。会うことはおろか、もう料理を教えることも出来ない関係なのよ」目元は潤むが何故か声はいつもと変わらず出る。
「・・・・・・分かりました。そうですよね、お互いのためにならないですから。もう話すことも電話もしません。タイコさんに教わった料理だけは忘れないようにします」
「ええ、ありがとう。――さようなら、直貴さん」
聞く言葉、話す言葉に感情が追いついていかない。まるでテレビでも見ているような他人事の気がする。
「ええ、失礼します」直貴の声が最後に聞こえたのと同時に、ガタッという音が向こうでして何も聞こえなくなる。
0173名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/26(土) 12:32:20.63ID:7rXzYp1F0
「――直貴さん? 聞こえる?」
受話器を戻したつもりがしっかりと収まっていないのだろうか。電話が切れていない。
「電話、切れてないわよ? もしもし?」
このまま切ってしまおうかと思ったが声がまた聞こえてくる。
「何だよ直貴、駄目だったのかよ。結局、次は会わねぇの、あの女と?」
いや、直貴の声ではない。別の男の声。
「ああ、やっぱ断られちまった。次会ったらぜってぇヤれると思ったのに」陽気な直貴の声。
0174名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/26(土) 12:39:36.35ID:7rXzYp1F0
「マジで残念だわー。めっちゃスタイルよくてタイプだったのに。直貴がヤッた後俺もヤりたかったわ」
この威圧的に話す声は直貴の部屋に上がってきた晶とかいう男の声だと気付く。
「・・・・・・しょうがねぇよ、他の女探すわ。尻が軽い女なんて他にいくらでもいるんだからよ」
信じたくない、思いたくはないが直貴の声だ。直貴と晶の卑猥な話しが受話器を通して聞こえてくる。
聞いていたくない、聞きたくない。受話器を力任せに思いっきり電話機に叩きつけて電話を切る。大きな音に驚きイクラが目を覚ましてぐずりだした。泣き起きたイクラを抱っこしてあやす。
民団はなぜ祖国韓国に貢献するために、
在日韓国人を帰国させないのですか?
0176名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/26(土) 12:51:22.02ID:7rXzYp1F0
所詮、直貴にとって私との関係はただの遊びだったのだ。既に結婚している私に恋心のようなものなど求めるはずがない。料理を教えてくれて自分の体の欲求を満たしてくれる都合のいい女としか見られていなかったのだ。
絶望感や虚無感が襲ってくるが苛立ち、胸糞らしさも襲ってくる。どうしようもない程、哀れだ。
直貴も憎いしそんな彼に惹かれて浮かれて思い悩んでいた自分に対しても憎らしい気持ち、滑稽感が込み上げてくる。
一人で高まる熱に浮かれていたことが今更ながら恥ずかしくなる。ただ、非日常にボケていただけだったのだ。もう忘れよう、いや考えないようにしなければ。普段の毎日に浸り、頭の中に湧く嫌な思いを認知しないようにし続けて、忘れようと決心する。
直貴との関係は終わったのだ。
私と彼、二人の物語はこれが最後で幕を閉じるはずだった。だけど、終わってなどいなかった。閉じたのは第一幕に過ぎなかったのだ――。
0177名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/26(土) 12:52:47.63ID:7rXzYp1F0
今日はここまでです
また明日、続きを書き込みます
0178名も無き被検体774号+ (アウアウオー Sa63-Bffi)2018/05/26(土) 15:40:29.72ID:I5gmr39aa
0179名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:18:51.01ID:v8ZV0SQ+0
書き留めが終ったのでどんどん書き込んでいきます
ついに完結します
0180名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:23:47.52ID:v8ZV0SQ+0
直貴と電話を最後にしてから二週間が経過した。家事をしていても三日間は直貴のことが頭の中にずっとちらついていた。その度に別のことを考え頭の中から存在を消し続けた。
少しずつだが確かに普段の日常に戻ってきた。新鮮さというより味気なさのほうが強く感じる。心にしこりのように残っている気持ちはあるが徐々に薄れてきている。このまま行けばずっと思いにフタをしたまま、フタをしたそのものを忘れることが出来る気がする。
ノリスケさんやイクラとの一喜一憂する日々をこの先も過ごして行けるはずだ。
誰でもない自分自身に言い聞かせてそう暗示する。
平日、大きな公園に行きベンチから他の団地の子達と遊んでいるイクラを見守る。晴れやかな気持ちいい風に吹かれてとても気分が爽快になる。ハンモックでもあればそこでうたた寝でもしていたくなる陽気だ。
0181名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:25:24.90ID:v8ZV0SQ+0
後方の少し先にある木々の中を見ると木漏れ日が幾重にも出来ている。とても綺麗な光景だ。その中の一本の木の陰に一人の男が隠れてこちらを見ていることに気付く。
幾重にもはねた茶色い髪の男――晶だ。
右目の下瞼がひきつる。とても嫌なものを視界に入れてしまった。折角の心地よい気分が消え失せる。せっかく時間と手間を掛けて作っていたシチューにゴキブリが入り台無しにされた気分だ。嫌悪感と同時に怒り、腹立たしい気持ちが募りだす。
「ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってくるわ。イクラを見ていて頂いても大丈夫かしら?」
立ち上がりながら隣のベンチに座っていたママ友に伝える。
0182名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:27:43.81ID:v8ZV0SQ+0
「ええ、大丈夫よ。トイレの看板があったから矢印の方向にトイレはあったはずよ」後ろの一本道のトイレの看板に視線を送る。
「ごめんなさいね、すぐ戻りますから」足早に歩き一本道に入る。
晶を横目で見ながら舗装されていない一本道を晶に近づくように早歩きで進む。
私が近づいてきていることを晶が分かると、踵を返して木々の奥の方に入っていく。何度も後ろを振り返り、私がついてきているのを確認する。人目につかない所に行くつもりなのだろう。彼と二人きりで対峙する怖さや恐れはない。
それ以上に苛立ち、気分の悪さのほうが上回っている。
0183名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:29:58.11ID:v8ZV0SQ+0
人通りがなくなってきた所でけもの道から外れ、直接彼の後ろを歩き追いかける。距離にして約二十メートル、早歩きで彼との距離を縮めていく。彼を見失わないか心配であったが少し歩いた所で彼が立ち止まり私のほうに振り返っていた。
辺りに木々が点々と生え、木で作られた簡易的なベンチが所々に点在している。人気はないが全く人がこないという場所でもない。人目に付く前に早く話を付けて追い返し、戻らないと。
彼に近づくなりまくしたてるように喋る。
「何、何の用なの? 気持ち悪い。直貴から電話があった後、電話が切れてなくてあなたと直貴が話す会話を聞いたわ。もう関わるつもりはないからさっさと消えて――」
「違う。別にあんたをひかやしに来たのでも誘いにきたわけでもねぇよ。ただ聞いてほしいことがあって・・・・・・」最後まで話す前に遮られ、真剣な眼差しを向けてくる。
0184名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:31:44.05ID:v8ZV0SQ+0
「その前になんで私がこの公園にいるって分かったの? 直貴に住所は教えてなかったわよ」
聞いてほしい話しがあろうとなかろうと私には関係ない。ただの作り話しか嘘としか思えない。両手を組み、まず頭の中にある疑問をぶつける。
「俺、新聞の印刷所で働いてて印刷し終わった新聞やチラシを配達所に届けることがあんだよ。それで、配達して事務所に誰もいない時さ、あんたの名前からあんたの住所を調べたんだ。それで、あんたの家には直接行かず周辺の行きそうな所を見て回ってたんだよ。
そしたら公園の中に入っていくのを見たから――」
「私の場所を知ったわけは分かったわ。それで、私になんの用なの?」
0185名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:33:27.42ID:v8ZV0SQ+0
早く話しだけを聞いて罵倒して追い返したい。彼は真面目な表情を作ってはいるが騙されないように男を睨みつける。
「俺と直貴が話してた内容は嘘なんだよ。直貴がわざと電話を切らないで、電話をする前に決めていた話をしてさ、あんたを騙したんだ」
「何言ってるの? なんでそんな嘘を付いったってのよ?」彼の話した内容に驚く。
彼の言うことを信じようとしたが、ただの嘘なのではないかと勘ぐる。
「あんたと別れるためだよ。俺、アンタと直貴がキスした話を聞いたよ。直貴はあんたのこと好きでいたけどもう会うわけにはいかない、あんたの家庭を壊してしまう、俺もタイコさんも壊れてしまうって。だから嘘をついてもう会わないようにするため、わざと悪役になったんだ」
0186名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:35:05.16ID:v8ZV0SQ+0
言っていることに真実味は感じられるが半信半疑だ。もし本当にそうだとしたら何故わざわざ言いにきたのだろうか。
「もしその話が本当だとして、どうしてわざわざ私に言いにきたのよ?」
「本当は言うつもりなんてなかったよ・・・・・・。直貴が最後に電話した時、ホントはあんたともう会うつもりなんてアイツにはなかった。でもアイツ、電話が切れたのを確認した後、体を丸めてむせび泣いてさ、本当に苦しそうだった。本当に愛してたんだなって思ったよ。
まるで、家族や大切な人が死んだみたいに泣いててさ、あんな姿初めて見た」
正直に真面目な表情で私に語りかける。王柄な態度からは想像が出来ない真剣さだ。この単純で短絡的な性格の人が私を騙すためにこんな嘘の演技が出来るとは思えなかった。彼が告白したことは本当なのだろう。
0187名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:37:07.16ID:v8ZV0SQ+0
「直貴のホントの気持ちをあんたは知っておいたほうがいいって思ってよ。直貴の気持ちを誤解されたままにしておきたくなくて――だから言いにきた。それにあいつ明日で引っ越すんだよ」
彼がわざわざ私の所に来てまで伝えたかったことは分かった。直貴の性格を考えればあの電話の内容は今、彼が言った真実で納得がいった。
「引っ越すって、どこに?」
「地元に帰るって。元々、こっちに出てきたのは技能を磨くためで、ある程度力をつけたら帰るつもりだったって。ずっと町にいるのはよくない、別れてもまたどこかで会えるかもって、一瞬でもあんたの顔を見ることあがるかも知れないからって。
もしそうなったら、俺もあんたも辛いからって言ってた」
0188名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:38:47.56ID:v8ZV0SQ+0
涙腺がゆるみ出す。やはり、私と直貴は同じ気持ちだった。
「そう・・・・・・でも、もう直貴とは終わったの。彼に別れの言葉は電話でしたから」湿った声を出さないように落ち着いて伝える。
「直貴と直接会って最後の別れを言えよ。それであいつも踏ん切りがつくか――」
「踏ん切りなんてつくわけないでしょ! お互いに泣いて、今よりももっと苦しく辛くなるだけよ。直貴がわざわざあなたとそんな演技をしてまで私を騙したのは、直接別れ話をして普通に別れるのが辛かったから。もう二度と接点を持つことがないようにするためだったのよ」
どうしようもない心苦しさ、哀しみが込み上げて私の心の中を支配していく。感情を抑えて話すが全ては抑えきれず熱い感情が漏れてしまう。
0189名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:40:51.65ID:v8ZV0SQ+0
「それでも、ちゃんと会って話したほうが気持ちが伝わるって思うけど・・・・・・」
あなたは何も分かっていない。部外者だからそんな他人事のように言えるのよ。お互いがお互いをどれだけ思っているか知ってしまうのは純愛なら素晴らしい関係だ。でも私達の場合は不倫関係、綺麗事だけでは済まされない。
一人の女に二人の男。そこに戸籍なんて関係ない、どちらの愛が強いかただそれだけなんて話は、映画の展開だ。映画はハッピーエンドで終えられても現実は違う。何年も何十年も先を生き続けなければならない。私には死ぬ思いで生んだイクラもいる。
築いてきたものを簡単にゲームのように壊して作り直すことなんて出来ない。私はそんなに強い人間でもなければ強靭な神経も楽観的な考えも持っていないし、この先も持てない。
0190名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:45:35.68ID:v8ZV0SQ+0
「直貴の気持ちは分かったから、もう――いいわ。わざわざ伝えてくれて、どうも。あなたももう、私には関わらないで」無味な感情をなくした言葉で伝える。
「ああ、分かってるよ。もう関わらない。俺は消えるよ」
私の横を通って、来た道をトボトボ歩いて彼が去っていく。私一人だけが取り残される。
一人きりになると抑え込んでいた感情が溢れ出てきた。とめどなく流れ出てくる気持ちを受け止めることが出来ずに涙がこぼれる。立っていることも出来ず、木に寄りかかりしゃがみ込んで嗚咽する。
私は大きく声を出して泣きたかったが、手に口を当てて周りに漏れ出ないようにして声をつまらせて泣いた――。
0191名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:46:54.31ID:v8ZV0SQ+0
ベンチに戻るとイクラを見てくれていたママ友が赤くなった目を見て尋ねてくる。
「タイコさん、どうしたの? 目が真っ赤よ?」
「トイレに大きな虫がいて、凄くびっくりしちゃって。ちょっと、それで・・・・・・」
「あら、やっぱり公衆のトイレだと綺麗にしてても虫が入ってくるのね。嫌だわ。刺されたりしなかった?」
「ええ、大丈夫よ。時間がかかってしまって申し訳なかったわ」
「そんな大丈夫よ。イクラちゃんも他の子達と仲良くずっと一緒に遊んでいたわ」
イクラを見ると、さっきは数人でおままごとをしていたが今はボール遊びに夢中になって楽しんでいる。ベンチに腰を降ろしてイクラをまた見守る。
0192名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 14:53:25.93ID:v8ZV0SQ+0
私にはイクラがいる。ノリスケさんに苛つき怒りをあらわにしようとした時はイクラがそばにいたから止められた。直貴と一線を越えようとしていた時も子供の声を聞いてイクラを思い出したから先に進まずとどまれた。イクラは常に私の中にいた。
直貴と先に進むことはできないのだから、今いるイクラを大切にして失わないようにしなくては。全てを破壊する許されない恋にもう終止符は打たれている。明日、引っ越す直貴に会いに行くことも電話をする必要もない。
「ハーイ、ハーイ」イクラが笑顔で近寄ってくる。
「沢山遊んだわね。そろそろ帰ろうね、イクラ」
両腕を広げ歩み寄ってくるイクラを私の腕と胸の中に包み込み抱き寄せる。暖かな包容力を感じて、イクラはご機嫌でキラキラした目で私の瞳を見詰めてくる。そう、ただイクラだけを見ていなくては。
0193名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:01:51.49ID:v8ZV0SQ+0
食事の洗い物を終えてテレビをぼんやりとノリスケさんと見ていた時、電話が鳴った。
立ち上がり電話機の前に向かう。まさかとは思うがきっと彼だろう。受話器を取り相手の声に慎重に耳を傾ける。
「もしもし、波野です」
「俺です、直貴です。もう電話しないって言ったのに突然電話してすみません。あの、俺と話すのが難しそうならすぐ電話切っても大丈夫です。もしくは適当に相槌でも打って聞いててください」
久し振りに聞く彼の声。今すぐ声を出して語りかけたかったがその言葉を飲み込む。後ろのソファーにはイクラとノリスケさんがいる。
ずっと適当に相槌を打っているだけでは怪しまれてしまう。何かの話しをしているようにしなければ。頭の中を逡巡し彼に話す内容を決めて喋りだす。
0194名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:03:43.95ID:v8ZV0SQ+0
「きんぴらゴボウの作り方?いいわよ教えてあげる」
料理の仕方を友達が電話で聞いてきていることを醸し出す。ノリスケさんのほうを振り返る。ノリスケさんは終盤に入ったテレビドラマを熱心に見ている。こちらには関心がないようだ。
「――ええ。その調子で続けてもらえればいいです。俺が一方的に話すので」
「まずは最初にゴボウを水洗いして皮をこそぐのよ」
彼の家で教えたきんぴらゴボウの作り方をまた初めから伝えていく。この話なら怪しまれないし長く繋ぐことが出来る。
0195名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:06:21.02ID:v8ZV0SQ+0
「さっき電話で晶から今日タイコさんの所に行き、あの時の本当の事を話したって聞きました。申し訳ありません、あいつ考えが浅くて頭で考えるより体が先に動いちゃうやつなんです。悪気はないかもしれないけど、いつも空回りしてるみたいで。
もう絶対に行くなって俺からも強く言っておいたんで」
彼に伝えたいことが山ほど出てくるが考えと思いを潰して話を続ける。
「そうね。ゴボウの皮をこそいで次にゴボウをささがきにするわ」
「晶が言ったとおり、電話が終わった後に話してた内容は嘘です。タイコさんを傷つけると思った。だけど俺の頭じゃ関係を断ち切れる方法はあれくらいの考えしか思い浮かばなくて・・・・・・」
0196名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:07:31.94ID:v8ZV0SQ+0
「それでゴボウのささがきを終えたら水の入ったボウルにいれて、水にさらしてアク抜きよ」
「すみませんでした、変に傷つけたこと。でも電話した時、タイコさんも俺と同じ気持ちっだって聞いて嬉しかったです。でも、だからこそ別れないとって思って、あの演技をしました」
目元が潤み手が震えだしそうになる。ゆっくり深呼吸をして息を整える。
「そしてアク抜きをしている間に人参を千切りにするわ」
「引っ越しの話しも聞いたと思います。明日、地元へ返ります。タイコさんのせいじゃありませんから、本当に。もともと、美容師の技術を高めたら地元に戻るつもりだったんで、それをちょっと早めただけなんで」
0197名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:08:58.11ID:v8ZV0SQ+0
「次に、切ったゴボウをザルに上げて水気を切って人参と炒めるのよ」
「こんな形でしか終わらせられないこと、すみません。タイコさんに教わったきんぴらゴボウの作り方や親子丼、しょうが焼き、他の料理の作り方などは絶対に忘れないようにします」
彼の言葉が湿り涙ぐんできていることが分かる。
「後はこの前に教えたとおり鍋で炒めて砂糖、酒、みりん、醤油を加えて炒めればいいわ」
「これで話しは終わりにします。もう二度と話すことはしません。もし万が一どこかで会っても他人のフリをしますから安心して下さい」
「――分かったわ。また料理の作り方で迷ったら料理雑誌で調べたり、他の人にも聞いてみてね」
0198名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:11:39.47ID:v8ZV0SQ+0
簡単に好きとか愛してるとかいう言葉を交わせない関係がこんなにも辛く苦しかったことをこの年まで知らなかった。もう切らないと、泣いてしまい真の心情を明かしてしまう。
「本当にありがとうございました。――さようなら」
「――いいえ、こちらこそ。失礼するわ」受話器をそっと戻して電話を切る。
今すぐにでも家を飛び出して彼に会いに行きたくなるがその思いを殺す。
「友達から・・・・・・料理で作り方が分からなくなったって、電話だったわ」
「おお。そうか、大変だなー」テレビから視線を変えずに答えるノリスケ。
今もこの鈍さがありがたく感じ、助かっている。今、涙ぐんだ私の顔を見られれば不審に思われてしまっていただろう。
ただ、イクラだけが私の顔を見て慈悲を持った目で微笑んでくれた――。
0199名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:13:15.39ID:v8ZV0SQ+0
寺尾直貴は数年前に都内から地元へ戻り、理髪店で働いていた。腕がよく近隣の人から盛況で隣街からもお客が足を運び予約は常に満員の状態である。店長代理を任され今は数名のスタッフと料理が上手な奥さんとで切り盛りをしている。
もし、波野タイコという女性を知っている人が寺尾直貴の妻と会ったら皆、こう言うだろう。髪型や髪色、身長、外見は違うが雰囲気はどことなく波野タイコに似ていると――。
(終)
0200名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 15:15:50.91ID:v8ZV0SQ+0
これで『錆びた日々』は終わりです
ここまでこの稚拙な三文小説をお読み頂いた皆様、ありがとうございました
お疲れ様でした〜
タイトルもあったのだね
しかしなぜタイコさん
お疲れ様でした・・・完結おめでとう!(((o(*゚∀゚*)o))) 0203名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 18:02:19.18ID:v8ZV0SQ+0
>>201
皆が想像しやすくイメージしやすい国民的アニメのサザエさんの中から主人公を選ぼうと思ったから
>>202
ありがとうー 0204名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 18:06:00.86ID:v8ZV0SQ+0
元々はSS形式で書いてくつもりだったが登場人物の名前をずっと出し続けるのが面倒になって小説形式にシフトチェンジしました
でもまさかのこれが結構難しかった。描写、心理表現、文体などなど、、、
続編・新編はあるんですか? 0206名も無き被検体774号+ (スププ Sd33-TNL7)2018/05/27(日) 18:30:29.06ID:ph45zuwed
面白かった
また期待してる
0207名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 19:19:42.31ID:v8ZV0SQ+0
0208名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 19:21:55.52ID:v8ZV0SQ+0
落ちるまでは質問等があれば答えていきます
あとはぼちぼち創作小話でも書いていきます
0209名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 19:25:33.33ID:v8ZV0SQ+0
GW後半、暇になってこの話しを書こうと思って第二章くらいまでは書き留めてました
すぐに完成するだろうと思って全部書き留め終わる前にココに書き込み始めたんだけど途中から詰まりだして結局半月以上かかってしまいました
最後までなんとか書けたのは保守してくれた人たちのおかげです
>>203
なるほど
男性のお名前が妙に具体的なのは誰かモデルでも…? 0211名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 19:34:50.22ID:v8ZV0SQ+0
>>203
特にモデルはなし
適当に小説開いて出てきた名前と苗字をくっつけました 0212名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 19:35:36.22ID:v8ZV0SQ+0
0215名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 19:49:32.47ID:v8ZV0SQ+0
>>213
残念ながら男
たいした恋愛もしてないです
話の中では所々、ドラマ「昼顔」の響いた言葉などをいくつか多用しました 0216名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 20:05:05.04ID:v8ZV0SQ+0
ちなみに考えてた他の展開としてはいくつかありました
・ノリスケも浮気をしだす
→ありがちで安っぽい展開になるから却下
・サザエに不倫を誘い互いに共犯関係になる
→サザエの性格から不倫行動をさせるのが厳しかったのとサザエさん一家の各家族との会話、心理戦、駆け引きが面倒臭そうになりそうだったので却下
・直貴だけではなく晶とも関係を持ち三つ巴の三角関係
→ただの官能小説になるのとバッドエンドにしからならなそうだったから却下
・直貴に付き合っている人か婚約者がいる
→ドロドロの修羅場になり収束が難しそうだったので却下
0217名も無き被検体774号+ (アウアウカー Sa95-aFdU)2018/05/27(日) 20:07:30.02ID:IOtIVFxSa
面白かった
乙です
>>215
なるほどありがとう
参考にきんぴらゴボウ作ってみようっと 0219名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 20:14:51.11ID:v8ZV0SQ+0
>>217
ありがとうございます
>>218
ちなみにきんぴらゴボウの作り方は各種料理サイトと動画サイトを参考にして書いたので一応はちゃんと作れるようになってます!
他の料理も話の中で書こうと思ったけど各要所を列挙して話しの中に織り込むのが結構大変だったのでやめました 0220名も無き被検体774号+ (ワッチョイ 13db-HY9j)2018/05/27(日) 20:46:29.11ID:v8ZV0SQ+0
他、小説投稿サイトでなく5chに書き込んだのは読んだ人の感想が聞きやすいかなーと思ったのと小説家になろう、とかだと感想やレビューに会員登録が必要だし作品が膨大過ぎて読まれないかと思ったから
0221名も無き被検体774号+ (ニククエ Sa63-Bffi)2018/05/29(火) 14:10:47.62ID:wEa7KB86aNIKU
>>220乙!
やっと読めた!面白かった!!
作者の思惑通りタイコさんがモデルになってる事でイメージが湧きやすかったわ
修羅場にしなかった事もイメージを崩さなくて良かったね!
足早に終わらせるより料理を作るシーンをもっと具体的にしても良かったんじゃないかとは思うけど創作意欲にも関わるからねー
また面白い話思いついたら教えてくれな!
お疲れさま!ありがとう!